古谷一行さんと時代劇 演じたキャラクターはどれも「もっさりとしたダメ男に見えるが、実は…」

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 ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第17回は、古谷一行(1944~2022年)だ。

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 8月に世を去った俳優・古谷一行は、多くの個性的な時代劇に出演した。

 ブレイクのきっかけとなったのは1977年の主演ドラマ「横溝正史シリーズ」(TBS・毎日放送制作)の名探偵・金田一耕助だったが、それが決まる前に、同じく毎日放送が制作した「新選組始末記」の土方歳三の役が先に決まっていた。そのため当時の古谷は、横溝シリーズの第1作「犬神家の一族」が撮影される京都と「新選組」が撮影される東京を往復する日々だった。

 原作・子母澤寛、脚本・童門冬二、行進曲のような重厚な音楽で知られる「新選組始末記」は、貫禄たっぷり近藤勇(平幹二朗)を剛腕の土方(古谷)が支え、すらりとスマートな沖田総司(草刈正雄)が隊の空気を柔らかくする。豪華キャストで大規模なロケーション撮影も敢行した骨太大作であった。

 実はこの作品の3年前、古谷は竹脇無我が主演の「鞍馬天狗」(日本テレビ)で沖田総司を演じたことがあった。

「土方はずっとやりたいと願っていた役でうれしかった。僕の土方はべらんめえの暴れん坊で、新選組のためなら非情になれる男。週の半分ずつ、東京では目が血走った土方、京都では風のように自由な金田一になれたのは、とても楽しかった」と話してくれた。

 見せ場の「池田屋事件」は芥川隆行の語りで「出陣」「出撃」と言われる物々しさで、3週にわたって放送された。不逞浪士が集まるのは四国屋か池田屋か――。四国屋へ向かう土方は、たった5人で池田屋に向かう近藤を「本当に大丈夫か」と心配する。池田屋で壮絶な闘いが始まり、「土方はまだか!」と絶叫する近藤の声に応えるように、土方は京の町を疾走する。思えば、金田一の下駄ダッシュも番組の名物であった。

実は凄い奴

「あの頃は、とにかくよく走ったなあ。下駄がすべらないように足袋の裏を濡らしていたんですよ」

 古谷は、あの声とあの笑顔で語ってくれた。

 時代劇出演作のほとんどは有名作家の原作ものだが、面白いのは、演じるキャラクターが「もっさりしたダメ男に見えるものの、実は凄い奴」ばかりということだ。

 原作・松本清張の「かげろう絵図」(1983年・フジテレビ)は、1840(天保11)年の春、大奥総出の花見の席で、大御所・徳川家斉(浜田寅彦)の若い側室・お多喜の方が事故死。その背景には、家斉の愛妾・お美代の方(中島ゆたか)と養父・中野石翁(山形勲)の暗躍が。石翁に殺された寺社奉行の甥・島田新之助(古谷)は、真相を暴くため、恋仲の謡の師匠・豊春(山口果林)を石翁の屋敷に潜入させる。どこかすねたように生きてきた新之助は、巨悪への復讐を誓い、イキイキとしてくる。

 原作・藤沢周平の「神谷玄次郎捕物控」(1990年・フジ)も人気作となった。

 同心の神谷玄次郎(古谷)は少年時代に母と妹を何者かに惨殺された過去を持つ、気ままな独身男。子連れのお津世(藤真利子)が営む小料理屋に入り浸り、デレデレと日々を過ごしている。上司(加藤武)からは女と別れろとしつこく言われるが、知らん顔。北町奉行所で一番の怠け者と言われるものの、実は剣の腕と観察力が抜群で、悪い旗本には「文句があるならいつでも相手になってやる!」と啖呵を切る度胸もある。若い情熱とは違う渋みのある男の色気と、時に見せる鋭い殺陣、過去から引きずる翳(かげ)。複雑にして魅力的な主人公は、40代半ばの古谷にぴったりはまった。

 この作品が放送されたのは、中村吉右衛門が主演の「鬼平犯科帳」と同じ枠。当初、映像化に乗り気でなかった原作者の藤沢は、古谷が演じる「神谷」を気に入り、ある日、単身、京都の撮影現場に菓子折りを持って挨拶にきて、スタッフを驚かせたという。そのような作家と現場の交流は、1997年に藤沢が亡くなるまで続いた。

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