スコットランド・サッカー協会が驚きの決定 長寿化で「ルールを根本的に変更すべき」との声も

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背景に長寿化

 サッカーと認知症の関係に注目が集まる背景には、世界で急速に進む長寿化があることは間違いない。

 世界の平均寿命は70歳を超え、主要先進国の平均は80歳を超える 勢いだ。世界の人口に占める65歳以上の割合は2050年には16%に達するとの推計がある。

 世界の高齢化によって最も増大すると懸念されている病気の1つが認知症だ。

 米ワシントン大学によれば、2050年時点の認知症の患者数は現在の約3倍に当たる1億5200万人以上になる。中でも、サハラ以南の東部アフリカ、北アフリカ、中東地域で患者数が急増すると予測されている。

 65歳以上になれば、6人に1人が認知症になると言われており、そのリスクが約4倍のサッカー選手なら3人に2人が認知症になる計算だ。

 一連の衝撃的な研究結果を踏まえ、世界各国のサッカー協会も対策に乗り出した。

 その先鞭を切ったのは米サッカー協会だった。2015年に「10歳以下の子供のへディングを禁止する」と発表した。イングランドやスコットランドなどのサッカー協会も2020年から11歳以下の子供のへディングを禁止した。

 日本サッカー協会は禁止措置は講じていないものの、「10歳以下の子供は風船や軽いボールを使用する」ことを推奨している。

 スコットランド・サッカー協会は既に17歳以下のへディング練習を制限するガイドラインを導入していたが、今回の決定はプロ選手にまで規制の網をかけた点が画期的だ。

「ヘッドボール」ではない

 へディングに関する規制がさらに進む可能性がある。

 サッカー発祥の地である英国で「認知症のリスクがあると知りながら、サッカー選手はへディングをしてよいものか」との議論が高まりつつあるからだ。

 前述のグラスゴー大学のスチュワート名誉教授は「回数による制限は正しい処方箋ではない。問題への対処が遅すぎる」と非難した上で「へディングは本当にサッカーに必要なのだろうか。そもそもサッカーは『フットボール』であり、『ヘッドボール』ではない」と主張する(2021年8月5日付フィナンシャル・タイムズ)。

 スチュアート氏はリスクを抑えるための世界規模の行動を呼びかけており、「サッカーのルールを抜本的に変更すべき」との圧力が徐々に強まっているが、FIFAはこの問題について正式なコメントを出していない。

 熱烈なサッカーファンにとって「へディング抜きのサッカー」などあり得ない話だろうが、「高齢化の世紀」と呼ばれる21世紀の健康上の脅威(認知症のリスク)を見過ごすわけにはいかない。近代サッカーは誕生以来、最大の変革の時期を迎えつつあるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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