秋ドラマに尾上松也、梶原善、安田顕が出演… 良い助演俳優の条件とは何か?

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舞台で鍛えられた演技力

「鎌倉殿の13人」で孤独な暗殺者・善児を演じた梶原善の場合、10月期ドラマを2本掛け持ちしている。まず「ファーストペンギン!」(日本テレビ)の漁師・山中篤役。好人物だが、どこかピントが合っていない男である。

 その一方で「エルピス―希望、あるいは災い―」(フジテレビ系)では深夜の情報バラエティ番組のMCで芸人の海老田天丼役を演じている。山中とは全然違うキャラ。どちらも出来てしまう上、観る側に既視感をおぼえさせない背景には、やはり才能と努力がある。

 岡山市生まれの梶原は高卒後に上京し、デザインの専門学校に入った。在学中の1985年、アルバイト仲間の紹介で三谷幸喜氏(61)が主宰する劇団・東京サンシャインボーイズに入る。紹介したバイト仲間が当時、同劇団に所属していた松重豊(59)だった。

 梶原は三谷氏の指導を受け、たちまち頭角を現す。同劇団の代表作の1つ「12人の優しい日本人」(初演1990年)でメインキャストである陪審員の1人を演じた。この作品には甲本雅裕(57)、相島一之(60)、阿南健治(60)ら現在も助演で活躍中の俳優たちが多数出演した。

 三谷氏は脚本が評判高いだけでなく、指導者、演出家としても名高い。その指導の1つとして知られるのが、「客席に向かってセリフを言うな」。それまでのオーソドックスな演劇の否定だ。

 代わりに「相手の俳優に話しかけるようにセリフを言え」と指導。これが三谷氏の作品のリアリティを高めた。また、セリフを相手に向かって言うのはドラマや映画と同じなので、所属俳優たちは難なくドラマなどの仕事に移行できた。

 梶原は2008年には、現在放映中のNHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」で好演する永作博美(51)の相手役を、演劇「幸せ最高ありがとうマジで!」で務めている。梶原は家族経営の平凡な新聞販売所の店主役。永作はその店主の愛人と勝手に言い張るブッ飛んだ女性を演じた。作品は高い評価を受けた。

 三谷氏が梶原に対し「『鎌倉殿の13人』を代表作にしろ」と言ったエピソードはよく知られているが、正確には「ドラマの代表作に」ということ。演劇界ではずっと前から一線級であり、知名度も抜群だ。

 善児役は並みの演技力の人では無理だったに違いない。千鶴丸(太田恵晴[4])、北条宗時(片岡愛之助[50])、源範頼(迫田孝也[45])らを次々と冷酷に殺しながら、源頼家(金子大地[26])の長男・一幡(相澤壮太[8])の殺害を北条義時(小栗旬[39]))から指示されると「できねぇ」と涙するのだから。情が移ったためだが、内面の変化に不自然さを感じさせなかったのは見事だった。

安田は4期連続登板

「PICU 小児集中治療室」(フジ)でPICUの科長・植野元医師に扮しているのは安田顕。元弁護士で小説家の森園を演じた7月期ドラマ「初恋の悪魔」(日本テレビ)から連投だ。

 1月期ドラマ「逃亡医F」(同)ではマッドサイエンティスト、4月期ドラマ「未来への10カウント」(テレビ朝日)では元プロボクサーでジム経営者をそれぞれ演じている。4期連続の助演となる。安田の場合も全て違うキャラだ。

 北海道室蘭市生まれで、1992年4月に北海学園大に入学。演劇研究会に入った。2学年上に森崎博之(50)がいた。森崎は1996年に演劇ユニット・TEAM NACSを旗揚げ(1度解散、1年後に再結成)する。ここに安田、1年遅れで入学した戸次重幸(48)、2年遅れ入学の大泉洋(49)たちが参加した。

 その旗揚げ公演「LETTER~変わり続けるベクトルの障壁」の動員は約1000人だった。それが2021年の「マスターピース~傑作を君に~」では約7万人に膨れ上がった。

 人気者が揃っているだけでは、ここまで観客は集まらないだろう。メンバーの演技が魅力的だからだ。

 安田は1996年に大学を卒業すると、1度は総合病院に事務職で就職するが、間もなく退職。芸能活動に専念する。2000年代に入ると俳優としての実力が知れ渡り、出演依頼が相次ぐ。2016年には映画「俳優・亀岡拓次」に主演する。役柄は助演俳優役で、その哀歓を表現した。

 安田がWOWOW「連続ドラマW 絶叫」(2019年)で演じたヤクザは恐ろしかった。眉毛を少し剃っていたせいでもあるが、別世界の住民にしか見えなかった。

 帰宅途中の風俗嬢を殴り倒して売り上げの現金を奪ったり、ホームレスから生活保護費を取り上げたり、極悪そのもの。それを安田はリアルに演じた。心優しい植野医師とは大違いである。演技の幅が広い。

 NACSは公演時には客演する俳優を招くが、メンバーは5人。公演のたび、さまざまな役柄を演じなくてはならない。おのずと演技力に磨きがかかった。安田の演技力の高さも才能と努力があったからだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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