最終戦で2本塁打の大逆転! あまりにも熾烈過ぎるタイトル争いの結末
「悔しいが、見事な逆転負けだった」
翌12日の西鉄戦の4回、長池は左翼ラッキーゾーンに本塁打性の飛球を放ったが、東田正義がグラブを金網の中に入れて強引にキャッチしたため、40号は幻と消えた。
そして、泣いても笑ってもシーズン最終戦となった10月15日のロッテ戦、「リラックスするんだ。それと外に逃げていくボールを打ちにいったらいかんぞ」と自らに言い聞かせた長池は、2回の第1打席で、フルカウントから八木沢荘六の内角スライダーをとらえ、左翼席に今度は正真正銘の40号ソロ。ついに大杉に並んだ。
1本出た余裕から、4回1死の2打席目も、カウント2-1から1球目にファウルした八木沢のチェンジアップを、今度は十分に引きつけて左翼席に運んだ。
2打席連続弾で、3年ぶり2度目の本塁打王を実現した長池は「最終戦で2本も打てるとは、自分でもビックリしている。大杉は僕が1本打っても2本目は(ないだろう)という気持ちだったと思う。それだけに残念やろうね」と熾烈を極めたライバル対決を振り返った。その大杉は「悔しいが、見事な逆転負けだった」と結果を素直に受け入れている。
“史上最少差”で首位打者に
打率3厘差を最終日に大逆転し、プロ7年目で初の首位打者を手にしたのが、76年の中日・谷沢健一である。
同年は巨人移籍1年目の張本勲が、10月16日に打率.355で全日程を終え、史上最多の通算8度目、史上2人目の両リーグ首位打者達成が確実視されていた。
一方、10月以降48打数25安打と大当たりのライバル・谷沢は、この日も4打数3安打で打率を.352まで上げ、残り4試合で逆転を狙った。
しかし、翌17日の広島戦ダブルヘッダーは2試合とも3打数1安打に終わり、打率を2毛下げてしまう。張本を逆転するには、残り2試合で4打数3安打以上が必要だった。
そして、10月18日の広島戦ダブルヘッダー第1試合。チームの先輩で、67年の首位打者・中暁生愛用のヘルメットをかぶって打席に立った谷沢は、第1打席で詰まりながらも右中間に幸運なポテンヒット。2打席目も一、二塁間を破る安打を放ち、逆転首位打者にリーチをかける。
3打席目は三振に倒れたものの、「次の打席で打てなければ、タイトルはフイになる。それなら覚悟を決めてフルスイングしよう」と開き直り、運命の4打席目、高橋里志の初球、フォークを中前へ。思わずバンザイしながら一塁ベースに駆け込んだ。
気力を振り絞って、奇跡的な大逆転劇を達成した谷沢は「うれしさがこみあげてきた。守備に就いたら、涙で前が見えなくなった。フライを1本落としてしまったほどだ。念願叶った喜びは、口では言い表せません」と感激をあらわにした。
谷沢が3割5分4厘8毛、張本が3割5分4厘7毛。史上最少差の“ヒット0.1本分”に泣いた張本は「(シーズン最終戦で優勝決定)優勝争いに熱中しているうちに、“無印”にやられたね。こっちも(残り)試合があって、一緒に争うなら絶対に負けない自信があったのだが」と悔しがった。
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