経済安全保障で「ロシア」「中国」スパイを野放しにできない…公安警察が新たに導入した捜査方法とは

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 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、経済安全保障で大きく変わったスパイ捜査について聞いた。

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 産経新聞は7月28日、1面トップで「露スパイ接触を企業に通報、技術漏洩阻止 警視庁公安部」というタイトルの記事を掲載した。

 記事によれば、先端技術を保有する企業の日本人社員が、ロシア通商代表部の職員に会社の通用門付近で偶然を装って声をかけられたという。

 職員は流暢な日本語で道案内を頼み、社員が目的地に連れて行く間に社員から連絡先を聞き出した。さらに「今度どこかに飲みに行きませんか」と社員を誘い、個別の関係を築こうとしたことを公安部は確認。この不審な動きを当該企業に通報したというのだ。

立件する前に通報

「今まで公安の捜査では、事件が立件されるまで、捜査情報を企業に通報することはありませんでした」

 と語るのは、勝丸氏。

「ですが近年、産業スパイの手口が巧妙化し、事件になる件数も増えて来た。そこで警視庁はこれまでの捜査のやり方を180度転換したのです。まず、日本の先端技術が海外へ流出するのを防ぐため、昨年12月、公安部に経済安全保障の専従班を立ち上げました。具体的に中国やロシアのスパイの手口を民間企業に伝え、産業スパイの注意喚起を行うことにしたのです」

 さらに、スパイが日本企業の社員などに接触を試みたことを公安部が確認した段階で企業に通報することになったという。

「スパイが社員に接触を試みた段階で企業に通報すれば、もちろん事件化することはできません。逮捕者もでません。立件する前にこういう形で企業に通報するなんて、以前なら考えられなかったことです」

 英語でエコノミックセキュリティと呼ぶ経済安全保障は、岸田文雄首相の看板政策の一つで、担当大臣も新設している。今年5月には、経済安全保障推進法を成立させた。この法律は4つの柱でできている。

(1)半導体など特定需要物資の供給確保のため、国が資金面で支援。
(2)電気、石油、通信など14事業で設備導入の際、サイバー攻撃に備えて国が事前審査。
(3)量子やAIなど先端技術について官民の協議会を立ち上げ、国が研究開発を支援。機微情報には守秘義務を課す。
(4)核や武器関連など国や国民の安全を脅かす恐れのある技術の流出を防ぐため、特許出願は非公開。

 罰則もあり、民間人や研究者が非公開の特許情報を漏洩すれば2年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が課せられる。

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