「ちむどん」失敗の研究 視聴者を釣り上げ、結末は薄い展開は理解不能

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リアリティの放棄

 一方、途中からリアリティを放棄した。正しかったのだろうか。4兄妹を子役が演じた第1週、第2週には確実にリアリティがあった。かつて那覇支局員だった知人の元新聞記者は返還前の沖縄県北部の貧しさの再現を見て、号泣したという。

 その後、どんどんリアリティがなくなっていった。第21週「君と僕のイナムドゥチ」で賢秀は勤務先・猪野養豚場の猪野清恵(佐津川愛美)と一緒に「フォンターナ」にいた。すると、チンピラ風の涌井(田邊和也)が唐突に現れた。後に清恵の元夫と分かった。

 涌井が現れたのは、賢秀と清恵がしばらく話し込んだ後だった。涌井は店内に入り込み、「清恵、久しぶりだな」と声を上げた。街中で見掛けたのなら、路上で声を掛けるだろうし、跡を付けて来たのなら、もっと早く店内に入るはず。不自然な場面だった。

 不自然な偶然も多い。「ドラマは偶然の連続」と若手記者時代に制作者から教えられたが、いくらなんでも目に付きすぎる。

 例えば第8週「再会のマルゲリータ」で和彦は横浜市鶴見区の沖縄料理居酒屋「あまゆ」の2階に住み始めた。暢子と一緒だ。「鶴見の沖縄タウンはそんなに狭くない」と言いたくなった。偶然にも程がある。

 第一、和彦との東洋新聞社での再会だって出来すぎなのだ。偶然は多用するほどリアリティが削り取られる。小説などと同じだ。

 人によって好みはあるだろうが、もっと見たかったのは鶴見の沖縄県人会長・平良三郎(片岡鶴太郎)と「権田興業」代表の権田正造(利重剛)のシベリア抑留時代の話。権田は「フォンターナ」からカネをゆすり取ろうとしていたが、三郎が出て来た途端、ピタリとやめた。

 シベリア抑留生活は想像を絶するほど過酷なものだったというから、三郎にシベリアで世話になった権田がゆすりをやめたのは分かる。ただ、それを視聴者の想像力に委ねてしまうのは勿体なかった。

 現時点までの描き方では「沖縄に失礼」と憤る視聴者がいるのも無理はない。多くの人は1972年まで日本に取り戻せなかったこと、在日米軍基地の約70%を負担させていることを心苦しく思っていることが背景にある。

 だから沖縄を扱う朝ドラを見る目は普段以上に厳しくなる。それを想定していたのだろうか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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