【初恋の悪魔】残り3話 見えてきた雪松鳴人署長のリバーシブル

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坂元氏の批判眼

 ここに坂元氏の強い批判眼を感じる。人間にはさまざまな面があるが、すべて表。社会もそう。「表側の人間」「裏側の人間」など存在しない。みんな表。立場や個性が違うだけだ。裏にされたら、たまらない。

 リサが送っていた家出少女たちとの共同生活が好例である。表側の人間と誤解されやすい行政は少女たちを救えなかった。一方、裏側の人間とされてしまうリサは少女たちの心を温めた。坂元氏らしいメッセージではないか。

 第3の事件の捜査が行われている現在、雪松は殺された大学生・蓮の恋人である桐生菜々美(あかせあかり)の逮捕を後押ししている。第1、第2の事件の時もこうだったのだろう。

 だが、第3の事件は鈴之介、悠日、ヘビ女側の星砂、小鳥による「自宅捜査会議」によって、菜々美のアリバイが事実上成立している。あとはどうやって菜々美を救い、雪松を追い詰めるかである。

 警察組織や世間が表側だと思い込んでいる署長の雪松の犯罪を、裏側と思われてきた落ちこぼれ刑事や捜査権のない人間たちが立証したら、痛快である。

 悠日の兄で県警1課刑事の馬淵朝陽(毎熊克哉)は2019年7月20日、ホテルの屋上から落ち、死亡した。その10日前、第2の事件の容疑者だったリサに向けて発砲している。

 武装していない容疑者に発砲するなんて、あり得ない。リサが死んだら業務上過失致死罪ではなく、殺人罪が適用される。それなのに「銃弾紛失」の始末署1枚で済んでしまった。これも警察内に協力者がいないと無理。協力したのは雪松だろう。

 リサが不連続殺人の真実の一端を掴んだため、雪松の意を受けた朝陽に消されそうになったのではないか。朝陽はそれを悩み、同7月19日に弟の悠日に「相談したいことがある」と電話したのではないだろうか。朝陽の転落死には当然、雪松が絡んでいる。

 最後に星砂の今後を読みたい。赤虎面の星砂が消えたら悠日が泣き、ヘビ女面がいなくなったら鈴之介が泣く。どちらの星砂が残るのか。

 赤虎も龍(ヘビ)も精霊である。精霊は現実世界に長くとどまれない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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