上級国民がダマされる「M資金詐欺」は、ほかの詐欺話と何が違うのか

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 昭和の時代から「M資金詐欺」は次々に財界人や著名人を飲み込んできた。平成から令和となり、この手口は消滅したと思われていた。だが、今もM資金詐欺を生業にする詐欺師と、彼らにダマされる“上級国民”が少なくない。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】

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 そんな実態を綴った『M資金詐欺 欲望の地下資産』(太田出版)を7月に上梓した。「M資金」と言えば、多くの人が「旧日本軍の隠し財産」を連想するだろう。だが、単に隠し財産と言っても、その内容は多岐にわたる。

 戦費を稼ぐために旧日本軍が戦地で取得した数々の戦利品、軍が発行したとされる特殊な戦時国債、大陸で極秘製造された各国紙幣の偽札プレート、貴族が所有していた資産価値の高い芸術品……。

 そして、それぞれに「それらしい物語」が付随している。

 例えば「欧米諸国の植民地だった東南アジア各国の政府が大量の金塊を貯蔵。それを日本軍が徴収したものの、敗戦のため輸送に困り、いったんフィリピンの山林内に隠した」といった物語だ。

 ちなみに、金塊隠匿の総指揮を執ったのは「マレーの虎」と呼ばれた山下奉文・陸軍大将ということになっている。

 この隠し財宝は「山下財宝」と呼ばれており、有名なM資金伝説のひとつとして日本だけでなく世界各国に伝播している。

 重要なのは、「山下財宝」の信憑性ではない。ソロモンの秘宝伝説や徳川埋蔵金伝説のように、M資金にも「伝説化した物語」が存在するということだ。

M資金話と詐欺はセット

「M資金なんて絶対にない」と断言する人は少なくない。だが、たとえ少数であっても信じる者さえいれば、伝説は成立してしまう。

 仮に伝説業界というものがあれば、M資金伝説は王道の人気コンテンツとして、長年にわたってトップの座に君臨し続けているのだ。

 M資金伝説には数々の枝話があるとはいえ、そのすべてが旧日本軍の隠し財産がベースだ。そのため伝説の誕生は、戦後(1945年以後)以外にあり得ない。

 そしてM資金伝説における最も大きな特徴は、「その大半に詐欺話がまとわりついている」という点だ。

 例えば、前出の徳川埋蔵金伝説に詐欺事件が絡むことは少ない。伝説のファンは、冒険に想いを馳せながら、怪しい地図を眺めて熱心に宝のありかを推理したり、仲間と情報を交換したりして楽しんでいる者が多い。UFOファンにも同じ傾向が認められる。

 しかし、M資金伝説には、「詐欺」「逮捕」「退職」「持ち逃げ」「自殺」というような忌まわしいワードがつきまとう。事件化されて当局の捜査対象となったケースも多い。それはいったいなぜなのか?

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