技能実習制度のベトナム人はそんなにヤバいのか 実務経験者が語る「反社とのリアルな関係」

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 7月29日、外国人が働きながら技術を学ぶ「技能実習制度」を見直すとの発表が政府からあった。年内にも有識者会議を設置し、見直しの具体的な議論を始めるという。これを受け、ニュースサイトやSNSなどのネット上にはコメントが殺到した。【井上トシユキ/ITジャーナリスト】

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 識者や著名人を含め、そのほとんどは「技能実習制度」そのものに否定的なスタンスで、見直しではなく廃止や新たな仕組みへの変更を求めるものが過半を占めていた。

 主な意見をまとめてみても、

「国際貢献の名を借りた体の良い現代の奴隷制度、外国人労働者の低賃金使い捨て公認制度を改めろ」

「内部留保の積み上げだけに熱心で、日本人の非正規雇用者のみならず外国人をも使い捨てにする、日本の産業構造にこそメスを入れろ」

「移民公認に繋がる制度は即座に廃止しろ」

 と、かなり激烈な批判が多数派で、制度を改正した上での存続を望む声は目立つものではなかった。

 各紙各局が配信する記事のそれぞれに付いた数千に及ぶコメントを読み、間断なく流れてくるSNSの書き込みを眺めていて、なるほどと首肯する部分もなくはないものの、大部分は響いてこなかった。

 おそらく、実態を知って書き込んでいるわけではなく、外国人実習生が起こした事件の報道やネットで公開されている記事の印象だけをもとにして語っているからだろう。

イメージより真っ当な制度設計

 昨年の8月から11月まで、筆者は外国人技能実習生の受け入れと、実習先への斡旋とサポートを行う監理団体に、正規の職員として籍を置いていた。団体の中では数少ない日本人として、定められた講習を受けて資格を取り、職業紹介責任者にもなっていた。

 仕事自体はとても興味深いものだったが、コロナ禍によって外国人の出入国ができないばかりか、それがいつ再開されるかも不透明な状態が続いたことで、団体の収支が急速に悪化。年次の浅い順に暇を出され、残念ながら退いて今に至っている。

 3カ月とはいえ、管掌する省庁、関連団体への書類提出に始まり、月次で行われる実習生および受け入れ先責任者との定期面談、実習生からの不定期の相談、突発的に起る各種のトラブルシューティングと、一通りのやるべきことをやらせていただいた。

 その立場から言えば、技能実習制度は設計の理念、実際の現場ともに、口を極めて罵るほどに悪いものではない。

 だが、背後に隠れて制度を悪用する者は常におり、その発見は容易ではなく、取り締まりには想像以上に時間と人手がかかる。

 筆者の実体験からすれば、技能実習制度には大まかに6つの問題があり、実態を知らぬまま安易に制度をいじくれば困ることが1つある。

潜む「反社」の存在

 6つの問題点とは、

【1】言葉ではなく言い方、話し方、声音への不慣れによる誤解やトラブル
【2】監理団体とその周辺に反社会的な人物が紛れ込んでいる
【3】実習生の本国にある送り出し機関にも怪しい団体が少なからずある
【4】日本の受け入れ企業のなかに、実習生を買い叩こうとするところがある
【5】実習生のなかには、本国を出ざるをえない事情を抱える者がいる
【6】日本でいう成人前の実習生も多く、日本に来て初めてギャンブルやゲーム、風俗に染まる者が一定数いる

 ──であり、困ることの1つとは、日本を支える中小、零細企業の破滅である。

 問題点の6つは相互に複雑に絡み合い、一部ではあるものの、結果として人権侵害や奴隷のようだと指弾されても仕方のないケースも生み出している。その意味で深刻な問題があることは事実だが、それだけを俎上に載せて全体にダメ出しするのは早合点が過ぎるというものだ。

 まずは実態を紐解いていこう。

 外国人技能実習生の受け入れと斡旋を行う監理団体は非営利であり、全国に4000程度があると言われる。そのうち外国人技能実習機構(OTIT)に届け出をしているのは1800あまり(2022年8月8日現在)。

「低賃金」はウソ

 そのなかには、地元の人材派遣会社が新規事業として立ち上げて間もないところや、実態として特定企業の窓口代わりとなっているところなどが含まれ、百人単位の実習生を扱い、いくつもの企業へ斡旋しているような監理団体は限られる。

 筆者が所属していたのは、ベトナムや中国からの実習生300人程度(一部、特定技能実習生も含む)を、関東各県、中国、九州、沖縄の在地企業へ斡旋しており、手広くやっていると言ってよい監理団体であった。

 決められた監査や認定を受け、監理団体として継続していくことは、決して簡単なことでない。OTITからの監査は厳しく、報告の義務がある点に不審や不明があれば、数日かけてキッチリ詰められることも稀ではないと、出勤初日に聞かされたほとだ。

 そもそも、日常的に行う実習計画の策定やその申請、月次の報告書作成は微に入り細を穿つもので、まるで気を抜く隙もない。

 よく言われる「外国人実習生だから日本人より賃金が安い」というのも、全体への指摘としては正しくない。

 たしかに、外国人が低賃金で労働者としてこき使われるケースはある。だが、それは正規の制度における実習ではないし、認定を受けている監理団体や大部分の受け入れ先企業がやっていることでもない。これについては、実際に接したケースを後述する。

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