注射するだけで老化の進行を遅らせられる? 順天堂大チームが開発した「老化細胞除去ワクチン」

ドクター新潮 医療

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 有史以来、人類が求めた“奇跡の妙薬”が現実になる日が近づいている。順天堂大学の研究チームが開発したのは人体に注射するだけで老化の進行を遅らせるワクチンだ。世界が注目するアンチエイジングの最前線を、科学ジャーナリストの緑慎也氏がレポートする。

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 初めて中国全土を統一した秦の始皇帝は、家臣に不老不死の妙薬を探させたと伝えられる。同様に、中世ヨーロッパで権勢を振るった各地の王も、錬金術師に自らの死を回避させる秘薬の調合を命じたという。

 永遠の命とまではいかなくても、若さや健康の維持を求める人間の願いには、時代も洋の東西も関係ないようだ。それは医学や科学が目覚ましく進歩した現代でも変わらないが、「不死」はともかく、我々は「不老」には手が届きそうなところまで来ている。

キーワードは「老化細胞」

 ワクチン注射で老化を防ぐ――。こんなニュースが世界を巡ったのは、昨年12月10日に科学誌「ネイチャー・エイジング」オンライン版で公開された論文がきっかけだった。

「ワクチンの役割は感染症への抵抗力を人体に与えるだけではありません。私たちのワクチンを接種したマウスで糖尿病につながる糖代謝異常が改善されたり、動脈硬化の病巣が縮小したりすることを確認しています」

 そう語るのは研究チームのリーダーで、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授の南野徹氏だ。チームが開発中のワクチンには、老化が早く進み寿命が短い早老症マウスの寿命を延ばす効果が確認されたという。その詳しいメカニズムに迫る前に、南野氏らが開発したワクチンと、老化予防との関係を説明しておこう。

 キーワードは「老化細胞」だ。正常細胞は一定期間ごとに分裂するが、老いた細胞(老化細胞)は分裂しない。といっても活動をすべて停止するわけでもなく、さまざまな炎症物質を周囲に活発にまき散らす。俗に「ゾンビ細胞」と呼ばれる。

「老化細胞の蓄積による慢性炎症が糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー病などの加齢に伴う疾患の発症や進行を引き起こすと考えられています。われわれのワクチンはこの老化細胞を減らすのです」

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