部活動がなくなる?「教員の働き方改革」最優先で始まった、「部活の地域移行」への違和感

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仲良くやれるか

 すでに長年、OB監督として部活指導を担っている指導者はこんな疑問を投げかける。

「私たちが休日だけ指導した場合、平日の指導を担当する教員と仲良くやれるでしょうか。私はできそうにありません。それに、選手は平日の先生と休日の私たち、どっちの指導を信頼するのでしょう?」

 さらに、部活動の現場を取材すると、普段は想像できない「少子化の影響」が部活動を脅かしている現実がわかった。長く中学の部活動に携わっていた元教員が言う。

「私の市内でも、過疎化した地域では生徒数が少なくて、例えば野球部はチームが成り立ちません。全校でひとつしかクラブを作れない学校もあります。生徒たちが部活で好きなスポーツを選ぶことができない。そのため、周辺の学校と地域合同で部活をやれないかと模索しているところでした」

物足りなさ

 なるほど、少子化はそんな影響ももたらしている。冒頭の委員がこの点を補足する。

「これまでの複数校合同規程では現実には難しい課題がありました。自分の通う学校に設置されていない種目は、他校との合同編成の対象になっていません。けれど今回の提言を受けて、やりたい種目ができる環境に向上します」

 始まりは働き方改革だったが、会議の経過の中で部活動のあり方にも存分な検討と配慮が注がれたと理解していいのだろうか。

 提言は、「部活動のあり方」や「子どもたちがスポーツをする目的や意義」にも触れている。提言が発表されてから、ネットや新聞などで様々な意見が発信され始めている。例えば、

「ひとりの子どもが複数のスポーツに親しめる環境や空気を作るべきだ」「部活に勝利至上主義を持ち込まない」「平日は学校で部活動、休日は地域移行ではなく、『平日の部活動は競技に親しみ、友人や先生とのコミュニケーションを深めるため』『競技としてのスポーツは休日に地域のクラブで行う』という分け方がよいのではないか」等々。

 これらは長年、一部の識者は強く訴えていたが、勝利至上主義に偏る日本のスポーツ状況に制圧され、ほとんど日の目を見ない考え方だった。競技志向とは別の、もっと楽しむスポーツの環境整備を、子どもたちだけでなく大人たちにも提供するための意識改革は重要だ。地域移行の検討をきっかけに、こうした本質的な議論が起これば大歓迎だ。

 私は、今回の提言にはまだ物足りなさを感じている。学校の部活動は、友人や教師とのコミュニケーションを醸成する意味でも重要だ。学校の魅力を高める意味でも重要だと考える。そのために、『持続可能な部活動のあり方』を模索できないのか? 「競技スポーツの地域移行」とは別に、部活動の存続を真剣に議論する道も残してほしいと感じる。ただし、今回の提言が、単に部活改革にとどまらず、日本のスポーツ風土を根本的に変える千載一遇のチャンスになるかもしれないとも感じる。コロナ禍ですべての社会活動が見直しを迫られている。スポーツも例外ではない。いつまでも「金メダル」や「勝利者」を礼賛し、勝ち負けだけを重視する価値観から脱皮するきっかけになればうれしい。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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