アイドルの「成長物語」、原点は伝説の番組「スター誕生!」だった 「完成品」より「下手な人」を選んだ阿久悠の先見性

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 アイドルファンの間では、“推し(好きなアーティスト)”を応援する醍醐味は「成長を見届けること」にあるとされる。実は、こうした慣習の原点は、あのスター発掘番組にあった――。気鋭の社会学者・周東美材が「お茶の間の人気者」を通じて日本文化を論考する。

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 日本のポピュラー音楽には、世界的に見ても稀有な特徴が存在する。それは、「未熟さ」への指向である。

 卓越した歌唱力ではなく、若さや親しみやすさによって人気を得る「女性アイドル」、ジュニアから育成されてデビューする「ジャニーズタレント」、未婚女性だけでレビューを上演する「宝塚歌劇団」など、あてはまる例を挙げればきりがない。いずれも、見る者は歌い手の成長過程自体を楽しむ。成長途上ゆえの可愛らしさやアマチュア性が応援され、愛好される。実力や完成度の高さは、むしろ敬遠されることすらある。このような芸能の成立背景をまとめたのが拙著『「未熟さ」の系譜』(新潮選書)である。こうした現代のアイドルの「成長物語」の直接的なルーツは、日本テレビ系のオーディション番組「スター誕生!」であり、そこから生まれた最大のスターが山口百恵である。

未熟な候補者が合格するシステム

 一定の年齢以上の読者であれば、「スター誕生!」を一度は見たことがあるのではないか。1971(昭和46)年の放送開始以降、巣立ったスターには、「花の中三トリオ」こと森昌子、桜田淳子、山口百恵を代表として、城みちる、片平なぎさ、岩崎宏美、新沼謙治、ピンク・レディー、石野真子、小泉今日子、中森明菜、松本明子、岡田有希子らそうそうたる面々がいる。

 こうしたオーディション番組自体は、なにも日本独自のものではない。海外には「アメリカン・アイドル」「Xファクター」などの人気番組があり、イギリスのボーイズグループであるワン・ダイレクションや女性歌手スーザン・ボイルといった世界的スターもその出身者である。ただし、海外のオーディション番組の最大の特徴は「完成品」が求められることで、歌唱力の不足は致命的な欠点となる。

「スター誕生!」は、これらとはまったく違うコンセプトの番組だった。今では多くの人が山口百恵や中森明菜、岩崎宏美らの歌唱力を高く評価しているが、番組に登場した時点で皆が皆、そのような評価を得ていたわけではない。いや、むしろそのような力を持っていないことが、ここから巣立つ「スター」の条件だったとすらいえるだろう。その点で、この番組は画期的だった。ではなぜ、この番組は最初から完成されたスターではなく、未熟な候補者を合格させていったのだろうか。

 そこには昭和を代表する作詞家、阿久悠の慧眼があった。

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