なぜいま「スポーツ賭博解禁」議論が必要なのか スポーツ界の未来を占う「7兆円産業」創出

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海外では既に賭けの対象に

 ところで私は、スポーツベッティング導入は検討の価値があると考えている。それは、先に述べたように、スポーツ普及振興の財源確保のために仕方なく、との理由だけではない。スポーツベッティングは、観戦をより面白くするのではないか、という予感があるからだ。

 このように言うと、私が反社会的な考えの持ち主のように言われる空気を感じる。何しろ、この件に関する新聞記事の大半が、スポーツベッティングを決して明るく楽しく紹介せず、「悪いことだけどね」という前提で話題にしている。

 たしかに、読売が見出しにしているとおり、八百長や依存症の懸念がないとは言わない。だが調べてみると、従来型の反社会的勢力が財源にするため開帳している賭博とは当然ながらまったく別物だ。

 私自身、「ギャンブルをスポーツの財源にするのか?」と、当初は抵抗も感じた。だが、熱心に研究し、導入を模索している民間企業のひとつである、株式会社ミクシィの木村弘毅社長の話を聞いて、認識を改めた。木村社長はこう教えてくれた。

「日本のJリーグはすでに海外のスポーツベッティング・サイトで賭けの対象になっていて、少なくても1兆円以上の売り上げがあります。そのうち2000億円から3000億円くらいは、国内に住む日本人が賭けているようです」

 巨額のマネーが、海外に流失している。DAZNが10年間2100億円でJリーグと契約した話には驚いたが、その背景にはスポーツベッティングの存在があるという。というのも、スポーツベッティングに参加するためには視聴が必然になるからだ。つまり、世界のスポーツビジネスはすでにスポーツベッティングと深く関連して展開している。日本だけがこれを拒絶し続ければ、鎖国状態のガラパゴスになりかねない側面も理解する必要がある。

 また、すでに解禁され、数兆円以上の収益を上げているアメリカは、その一部をスポーツ予算に還元し、強化や普及を充実させるだろう。一方、相変わらず少ない予算しかない日本は、競技力でもスポーツライフの充実の点でも、アメリカと比較して天と地の惨状 に陥る恐れがあるだろう。

 ミクシィの木村社長はこうも言う。

「日本で導入されれば、約7兆円の売上が見込まれます。このうち25パーセントをスポーツ界に還元するだけでも、年間1兆8000億円近い財源をスポーツ界は毎年、安定的に得ることができます」

 現状の40倍! かつて日本のスポーツ界が手にしたことのない財源をスポーツベッティングが生み出してくれる。それなのに、門残払いし、悪者扱いを続けることは賢明だろうか。

「現金を窓口で払う従来のギャンブルと違って、スポーツベッティングは完全にネットで楽しみますから、1日の購入限度額や年齢制限も、きちんとセーフティガードがかけられます」

 依存症による生活破綻などをすぐに連想する従来の悪しき賭博のイメージとは違う現実がいまはあるのだ。

細かな設定まで可能

 聞けば聞くほど「面白そうだ」というのが、私の実感だ。スポーツベッティングは、レースが始まる前に投票を終了する従来の競馬や競輪、競艇、さらにはサッカーくじ「toto」とも違い、試合が始まってからも賭けを楽しむことができるのだ。

 野球ならたとえば、「5回表、佐々木朗希投手が打席に迎えた柳田悠岐選手を三振に取るか、ホームランを打たれるか?」といった結果まで予想できる。9回裏、逆転はあるか、ないか。最後の打者は三振か、セカンドゴロか、など、細かな賭けが設定できる。つまり、ただお金を稼ぐギャンブルの要素だけでなく、試合を予測する楽しみ、自分の鑑識眼や野球力を予想によって証明し、自尊心を満たす喜びも味わえるのだ。

 昨今、野球の人気も低迷している。だが、スポーツベッティングが始まれば、これまで野球観戦から離れがちだったファンも再び野球に注目し、いや試合開始から終了までずっと、自分がスポーツベッティングのプレーヤーとして参加する興奮を味わえる。それがしかも、現在の40倍ものスポーツ予算の財源になるのなら、立派な社会貢献でもある。少なくとも、“教育上よくない”“依存を招く”“八百長”といったワードにのみ振り回され、思考停止してしまうには、どうしてももったいない気がするのだ。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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