〈鎌倉殿の13人〉気鬱に悩まされ、ニ十歳で病死 父・頼朝に翻弄され続けた「大姫」の実像とは

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 放送開始から約半年が過ぎたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。前回23話では曾我兄弟の仇討ち(1193年)が描かれた。すると近づいてくるのが、南沙良(19)が演じている大姫の死(1197年)。大泉洋(49)扮する源頼朝の第1子である。史書を基に大姫の実像に迫りたい。

「おんたらくそわか、おんたらくそわか…」

 大姫は第21話で祖父の北条時政(坂東彌十郎 66)に対し、元気になるおまじないを教えた。

 大姫は善意のつもり。だが、その場にいた時政の妻・りく(宮沢りえ 49)や大姫の母・政子(小池栄子 41)、義時(小栗旬 39)ら北条ファミリーは一斉に引いた。観る側もちょっとコワかった。

 そのうえ大姫は勝手に自分の名前を変えていた。

「私、きょうから『葵』になりました」

 満面の笑みでそう宣言した。りくは「やばい」と感じ、生まれたばかりの北条政範を別室に移した。義時も長男の金剛(幼少期・森優理斗)を退席させた。無理もない。

 大姫はスピリチュアル女子のハシリだったのか。いや、「鎌倉殿――」を観る限り、許嫁だった源義高(市川染五郎 17)を頼朝に殺されたせいで、心に深い傷を負い、それが癒えていなかったのだろう。

 大姫は史書にはどう書かれているのか。

 生まれたのは1178年と考えられている。頼朝32歳、政子22歳の時だった。平家滅亡に向けて頼朝が挙兵した1180年より早かった。

 6歳の時には木曽義仲(青木崇高 42)の長男で11歳だった義高と婚約する。頼朝と対立していた義仲の要望だった。

 頼朝は義高を人質にすることを望んでいたが、義仲はそれを許さなかった。「義高は渡す。その代わり将来は大姫と結婚させろ」という訳だ。

 義高が鎌倉入りしたこともあって、頼朝と義仲の対立はひとまず収まる。この時点で大姫は頼朝の権力闘争の道具になることが宿命付けられていた。

 翌1184年1月、義仲は粟津の戦いで源義経(菅田将暉 29)らに討たれた。義高には不運だった。立場が急に悪化した。

『吾妻鏡』によると、同年4月、頼朝は義高の殺害を計画する。それを知った大姫は義高を鎌倉から脱出させた。大姫を不憫に思った女官たちが全面協力した。

 もっとも、義高は頼朝による追跡網から逃れられず、武蔵国(現・埼玉県)で捕らえられ、武士・藤内光澄に殺害される。それを知った大姫は悲しみのあまり、寝込んでしまい、水すら飲めなくなってしまった。

 愛娘の傷心に怒ったのは政子だ。頼朝に光澄への罰を強く迫る。怒りの矛先がまるで違うのだが、光澄が責任を取らされることになり、処刑された。「鎌倉殿――」の第17話の通りである。

 その後の大姫は「気鬱(気分がはればれしないこと)」の状態が長く続いた。頼朝は邪気が影響していると考え、祈祷などを繰り返した。まるっきり見当違いであり、大姫が明るさを取り戻すことはなかった。

断ち切れない義高への思い

 そもそも大姫は繊細な少女だった。後白河法皇(西田敏行 74)が頼朝に義経追討の院宣を出した後の1186年3月に、捕らえられて鎌倉にやってきた義経の愛妾・静御前(石橋静河 27)に対し、心配りを見せている。

 同7月、静は義経との男児を出産したものの、その赤ん坊は頼朝によって殺された。静は赤ん坊を奪われた際、いつまでも泣き止まなかった。

 それを知った大姫は静に同情する。静は約2カ月後の同9月、故郷の京へ帰されたが、その際、大姫は静を少しでも慰めようと考え、政子と一緒にたくさんの宝を土産として持たせた。

『吾妻鏡』によると、1191年に大姫の気鬱はようやく晴れた。13歳になっていた。

 ただし、義高への思いは断ち切れた訳ではない。御家人たちの間では大姫の一途な思いを讃える声も上がった。

 1194年、16歳になった大姫に対し、頼朝は公卿(朝廷に仕える高官)の一条高能との結婚を勧めたが、大姫は猛反発する。大姫はこう言い放った。

「しかるがごときの儀に及ばば 身を深淵に沈むべきのよし」(『吾妻鏡』)

 そんなことをするなら、淵に身を投げて死ぬ、という意味である。さすがに、この結婚話は流れた。

 気鬱が治った後も大姫は病弱だった。『吾妻鏡』には何度も大姫の体調が悪いとの下りが出てくる。

 だが頼朝が大姫の体を本気で心配していたとは思えない。1195年2月の上洛(京へ行くこと)に付き合わせているからだ。

 当時、鎌倉から京都に行くには1週間以上かかったとされている。大姫自身が自分で歩くことはなかったろうが、それでも移動と京滞在は体に堪えたはず。しかも、この時の京滞在は3カ月半にもおよんだ。

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