首都直下地震が起これば「死者6100人」で済むのか検証 専門家は「ケタが二つ足りない」

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

想定外の被害

 東京都の想定では、死者の内訳のうち、建物倒壊によるものが5割、火災によるものが4割と、両者が全体のほとんどを占める。

 が、この10年の対策により、耐震基準を満たした住宅の割合が10%以上アップ。大規模な火災が発生しやすい木造住宅密集地域(木密)の面積も46%減少した。これらの“成果”ゆえに被害が減じるというのだが、

「その数字も鵜呑みにはできないですよ」

 と金子氏が続ける。

「確かに全体の木密の面積は減っているのかもしれません。しかし、その中でも特に改善を図るべき、『不燃化特区』がいまも東京には52地区もあり、それらの状況はここ数年、ほとんど変わっていないのです。本当に危険な木密がそのままですから、現実に火災による死者が大幅に減るかは、相当に疑わしい」

 そもそも、大災害には、常に想定外の事態が起こるものだという。

「都市構造が複雑化した東京ではこの想定外の事態への備えが問題になるんです。例えば、東京消防庁が保有するポンプ車の数はおよそ500台。一方、今回の都心南部地震で起こりうる火災の件数はざっと11万2千件ですよ。1台で224件さばかなくてはいけないことになる。そんなことできるわけがないですよね」

「現場からしてみれば…」

 耐震化の進展についても、

「確かに耐震住宅は増えているのでしょうが、40年ほど前に今の耐震基準ができてから、東京では巨大地震が一度も起きていないんです。複雑化した都市には目に見えないリスクファクターが潜んでおり、今の耐震基準で本当に安全かはわからない。基礎構造から上が倒れたり、タワマンが曲がってしまったりといった事態が起こらないとも限らない。そうした要素を無視した数字が出ているから説得力がないんですよね。現場からしてみれば、災害の実態を知らない研究機関が出した数字じゃないの、って思いますよ」

 東日本、阪神・淡路の両震災の前にも、15メートルの津波や、高速道路の倒壊を予測していた専門家はほとんどいなかった。首都直下地震で想定外の被害が起こらないことを予想する方が、余程不自然なことなのだ。

次ページ:関東大震災では死者のうち9万人が火災

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。