水産専門記者の証言「海鮮丼は日本全国、どこで食べてもほぼ同じ」なワケ

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「前浜モノ」だけでは安定供給も満足感もナシ

 魚の流通に詳しい水産アドバイザーの小谷一彦氏は、「人気の海鮮丼のネタは、北海道や三陸産が多く、サーモンなど輸入物も多い。5~6種のネタのうち、前浜(近隣漁港)の生魚はせいぜい1、2種類ではないか。他は冷凍魚が主流」とみる。
 
 地元の魚だけでは、客が求める丼ができない理由のひとつに、魚種や値段を固定しにくい点が挙げられる。生の魚は日々、漁港で値が動くわけだから、時化(しけ)などで水揚げが少なければ、魚価は上がってしまう。従って、比較的仕入れ値が安定した他産地の冷凍魚や養殖魚を使う方が無難なのだ。

 写真をメニューに載せれば、それと同じ丼を出さないと「メニューと違うな……」という不満を抱かせることにもなる。最近ではすぐにSNSで拡散される心配もある。どうせなら喜んで丼の写真をアップしてもらえるよう、豪華で綺麗な、そして、ありがちな丼をメニューの中心に据えた方が、客も店もハッピーというわけだ。

 魚の流通事情が昔と比べ格段に良くなった今、地方でも築地場外市場に近い魚介が、比較的容易に確保できるようになったのではないか。冷凍魚や養殖魚ならなおさら簡単に調達できるわけだから、地の魚は「5~6分の1」でも不思議ではないということであろう。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。

デイリー新潮編集部

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