バイデン大統領に問いたい「米国は有事に日本を守るのか?」 日米安全保障条約に秘められた“問題部分”とは

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「対処したいものである」

 安全保障の問題は、条文の文言などに左右されないとの異論もあるかもしれません。しかし、米国は厳格な契約社会です。旧約聖書、新約聖書の「約」は、契約の「約」であり、人間と神との契約が聖書に記してあるのです。米国の大統領就任式で聖書に手を置いて宣誓する慣習は、大統領と国民との契約である宣誓が、人間と神との契約のように神聖で絶対であることを黙示しています。安保条約も例外ではありません。

 安保条約の日本語正文の第5条にある「危うくするものである」は、以下に引用する英語正文では“would be dangerous”、「対処する」は“would act”となっています。これは微妙な違いではなく、本質的な違いです。

〈Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes.〉

 国際条約は締約国相互の現在、そして未来の行動を規定するものですから、このwouldは過去のことではなく、現在の自分の心の中で想定していることを述べる仮定法です(仮定法は話し手の主観的な推量や意志・希望を表現するので叙想法とも言われます。仮定法のwouldについては江川泰一郎『英文法解説 改訂三版』をご参照ください)。ですから、安保条約第5条の英語正文の“would be dangerous”は「危うくするかもしれない」という意味であり、“would act”は「対処したいものである」を意味します。

安全保障を「最大化する」

 一方、ロシアによるウクライナ侵攻に衝撃を受けて、フィンランドとスウェーデンは長年の中立国の立場を放棄し、NATOに正式加盟しようとしています。そして、NATOの基盤を成す北大西洋条約では、主観的な推量や意志・希望を表すwouldは一度も用いられていません。だからこそ、フィンランドの大統領はNATO加盟がフィンランドの安全保障を「最大化する(maximize)」と述べたのでしょう。

 実は、日米安保条約で主観的な推量や意志・希望を表すwouldが用いられているのは上に引用した第5条の前半だけで、それ以外の箇所では一切用いられていません。「アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と定めている第6条の「許される」は英語正文で“is granted”と直接法で述べられ、“would be granted”と仮定法では述べられていないのです。

 オーストラリア、ニュージーランドそして米国が1952年に締結した安全保障条約であるANZUS条約の第4条の前半にある、「太平洋地域におけるいずれかの締約国に対する武力攻撃」を「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に置き換えると、そのまま日米安保条約第5条前半の英語正文になります。日米安保条約の英語正文はANZUS条約をモデルにして作成されたと考えられます。

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