「補聴器は隠すことじゃない」 俳優・井上順が明かす、難聴で開けた新たな人生

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「詐欺みたいなものじゃないかと」

 決して人との会話そのものが嫌いになるわけじゃないんです。でも、本当は聞こえていないのに適当に相槌を打ったり、相手が一生懸命喋ってくれているのにそれを理解できていない自分の行為は、犯罪に近いんじゃないかとさえ思えてしまう。せっかくお仕事をいただいているのに、実はよく聞こえていないせいで迷惑をかけるのは詐欺みたいなものじゃないかと。

 そして何よりも、僕はミュージシャンとして絶対音感に近い自信を持っていたのに、音が取りにくくなって、歌い出しの第一声が怖くて仕方なくなってしまった。周りがうなずいている時は合っていて、首を傾げている時は外している。ビクビクしながらそうやって確認する状態を、やっぱり続けるわけにはいきません。

加齢による難聴は、遅かれ早かれ誰もが通る道

 そこで、これはもうオープンにしようと、感音性難聴であることを明らかにして、補聴器をつけることにしたんです。すると……。

「なんだこれは!」

「みんなはこんなふうに聞こえていたのか!!」

 つけていない時とは比べ物にならないほどよく聞こえる。もっと早く補聴器をつけていればよかった、そして新しい人生が開けたなと強く感じました。

 みなさん、近眼だったり、老眼だったりすると、検眼して、自分に合う度数の眼鏡を作るのって当たり前だと思うんです。だけれど、耳に関してはそうなっていない。検査するのにも時間がかかるし、両耳に補聴器をつけるとなると、場合によっては数十万円かかることもある。でも、補聴器は自分への投資だと思うんです。年を取って耳が聞こえにくくなったからそこで終了――ではなく、補聴器をつけることで第二の人生を始める。絶対にお勧めです。

 世間では、眼鏡をかけるのに比べて、耳が遠くなって補聴器をつけるのは恥ずかしいと思う人もいるようですが、僕はそうは感じませんでした。加齢による難聴は、遅かれ早かれ誰もが通る道ですから。

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