松重豊がせりふ暗記に使っているノートとペンは? 撮影中も衣装の中に

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ペンは「STABILO社製のポイント88の黒が最高」

 その後舞台俳優からテレビや映画の仕事に移行していったのだが、書いて覚えるという習慣をやめることはなかった。しかも脇役の私は常に台本を何冊か持ち歩いて数をこなしていかなければならない状態が続いていた。それにはやはり書いて書いて覚える、それしか無い。

 まず台本をもらって目を通し脳に漬け込む必要がある箇所をチェックする。そしておもむろにノートを取り出す。ミシン目から1枚切り離し横罫のノートを横にして縦書きの構えをとる。そうすると左3目盛りの縦線が役名とせりふを分ける横線に早変わりする。日本において99%以上の台本がいまだに縦書きなのは不思議だが私の脳はもはや横書きを受け付けないだろう。まずシーンナンバーを役名右上に書く。そして自分のせりふを書写するわけだがペンについても言及したい。さんざ試した結果ドイツのSTABILO社製のポイント88の黒が最高で、これを二人目の相棒と呼んでいる。こう書くと高級万年筆の類いを想像されそうだが1本100円程度の消耗品なのでご安心あれ。その黒ペンで自分のせりふを書いていく。相手のせりふは1行飛ばしてそのシーンの最後まで書き写す。今度はポイント88の赤で、飛ばした行に相手のせりふとト書きを書いていく。これでカンペの出来上がり。脳に刷り込むまでポッケに入れて持ち歩く。撮影当日もお守り代わりに衣装に忍ばせる、大事な相棒なのだ。

 だいぶ前にこの相棒が廃番商品になるといううわさが流れた。どれだけあれば私の役者人生に足るかと思い100冊買ってしのいだが先日底をついた。その後相棒は幸運にも廃番を免れた。さてこれからの役者人生、あと何冊の相棒が必要なのか思案しているところだ。

松重豊(まつしげ・ゆたか)
1963年生まれ。福岡県出身。蜷川スタジオを経て映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。2020年には自身初の書籍『空洞のなかみ』を上梓する。

デイリー新潮編集部

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