数字はそんなにでもお勧めの春ドラマ3選 土屋太鳳「やんごとなき一族」で思い出すドラマは?

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フジテレビ「やんごとなき一族」(木曜午後10時)

 原作は同名人気漫画。ドラマもマンガチックである。

 主人公は土屋太鳳(27)が演じる大衆食堂の1人娘・篠原佐都。ウルトラ大金持ちの名家に嫁いだところ、あの手この手でいじめられる。だが、やられっぱなしにならず、対決するという物語だ。

 荒唐無稽な話であるものの、土屋の演技が相変わらずうまく、松下洸平(35)や石橋凌(65)ら共演陣も豪華だから見応えがある。

 脚本のテンポもいいし、演出も美術も凝っている。優れた出演陣とスタッフによってつくられたドラマは作風がバカバカしくたって面白い。

 土屋の演技はここ数年で磨きがかかった。昨年までの9年で15本もの映画に主演したのはダテじゃない。コミカルもシリアスもOK。気の強い役も弱い役も自由自在だ。そんな土屋の幅の広さがこのドラマでは存分に生かされている。

 第1話の前半までは食堂「まんぷく屋」の看板娘に成り切った。チャキチャキしていた。それが、松下が扮する恋人の深山健太からプロポーズされると、変貌する。はにかむなど、かわいらしい一面も見せる。

 ところが深山家がとんでもない存在だったので、再び変わる。戦う女性になる。深山家はうなるほどカネがある上に400年の歴史があり、驕り高ぶった一族だった。

 石橋が演じる当主・深山圭一は家に挨拶に来た佐都に対し、スピーカー越しに「帰れ」と言い放ち、門戸を閉ざす。この件に限らず、一族の振る舞いは失礼の範囲を軽く超えている。その点もマンガチックなのだ。

 なんとか結婚を許された後も松本若菜(38)が演じる兄嫁・美保子、倍賞美津子(75)扮する義祖母の八寿子らに意地悪を繰り返される。それに立ち向かう。歪みきった深山家を常識人の佐都が改革できるかどうかが見どころだ。

 2016年に幕を閉じた東海テレビ制作の昼ドラの遺伝子を感じさせる。ヒロインがろくでなしの親族に苦しめられるという構図は昼ドラの王道の1つだった。松本、倍賞の濃いキャラも昼ドラを彷彿させる。分かりやすくていい。

日本テレビ「パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~」(土曜午後10時)

 工学科出身の警視正・小比類巻祐一(ディーン・フジオカ)と変わり者の天才科学者・最上友紀子(岸井ゆきの)が、これまでの常識では解決できない科学犯罪を解決する。

 このバディのみだと堅苦しい物語になる恐れもあるが、科学の知識がまるでない刑事・長谷部勉(ユースケ・サンタマリア)もチームに加わり、コメディリリーフ役を果たしている。

 第1話ではロボット開発会社のCEOが殺された。理想主義者の前CEOが開発したロボットがお払い箱になりそうだったため、その部下だった郷原美鈴(内田理央)が殺したのだ。

 脚本が面白かった。美鈴は犯行隠蔽のため、小比類巻と友紀子の殺害も謀るが、ロボットが「こんなことをしてはいけません」「これ以上、罪を重ねるわけにはいけません」と強く戒める。最後はロボットが美鈴に従うよう組み込まれたプログラムに抵抗し、犯行を阻止する。

 ボストン大教授でSF小説の大家だったアイザック・アシモフはロボットが従うべき行動として「人間への安全性」「命令への服従」「自己防衛」という3原則を残した。

 けれど、この3原則をロボットが破り、人間の過ちを戒めたり、人間のために自己犠牲に走ったりしたほうが観る側は胸を突かれる。

 50代以上が涙したテレビ朝日の特撮ドラマ「ジャイアントロボ」(1967年)の最終回もそう。ジャイアントロボは命令を無視し、放射能を帯びた危険極まりない怪獣を抱えて宇宙の彼方まで飛んで行き、自爆した。そして人々を救った。この筋書きによって伝説のドラマとなった。

「パンドラの果実」も科学と人間ドラマのブレンドの具合がいい。プロeスポーツ選手の怪死事件を追った第2話もそう。米国ドラマにありがちな科学一辺倒の作品とは異なる。

 ディーン・フジオカのクールな小比類巻役も合っているが、岸井ゆきのの友紀子役がハマっている。16歳でMIT(マサチューセッツ工科大)に入学し、19歳で博士号を取得したノーベル賞級の天才役なので、それっぽく見せるだけでも一苦労のはずだが、成り切っている。何を演じてもうまい人だ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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