キムタク主演ドラマのベストヒロインは誰だ? メディア文化評論家が厳選した“3人の女優”
『HERO』雨宮舞子(松たか子)
キムタクドラマのヒロイン、その真打ちの登場だ。『HERO』(フジテレビ系、2001年)で松たか子が扮した雨宮塔子である。
福田靖たちが脚本を手掛けたこのドラマ、主人公の検事・久利生公平(木村)が新鮮だった。高校中退の元ヤンが司法試験をパスして検事となったのだ。
いつもジーンズにダウンジャケットで、スーツ姿など皆無。髪も七三分けとは程遠いキムタクカットだ。さらに通販オタクというのも笑える。
また裁判の案件に対するアプローチも、野生のカンと論理性が交差する独特のものだ。あらゆる点で検事の既成概念から外れていた。
そんな久利生と組むのが検察事務官の雨宮だ。常識と倫理を重んじる彼女を、最も的確に表す言葉は「生真面目」だろう。
ならば、面白みのない女性かといえば、そんなことはない。人間に対する「好奇心」が半端ではないからだ。雨宮から見たら久利生もまた、興味深い「珍獣」である。
予期せぬ行動に出る珍獣は、いつも雨宮を怒らせ、そして叱られる。この時に見せる「怒った顔」が、雨宮ファンには堪らない。
生真面目な雨宮が自分勝手な久利生に振り回されるほど、彼女からこぼれ落ちる「おかしみ」も見る側を引きつけた。
さらに、その生真面目さは私生活でも発揮される。最大の特徴は「身持ちの堅さ」だ。いや、だからこそ、ふとした瞬間に見せる「隙(すき)」が好ましい。
この雰囲気は松ならではのものであり、生まれや育ち、また男性的ともいえるさっぱりした性格などが源泉だ。何より、女優・松たか子には凛とした気品がある。
ドラマの進展と共に、雨宮は久利生に対して「憎からぬ思い」を抱くが、そんな自分の感情を「見て見ぬふり」をする。そこが愛おしい。
何しろ、雨宮と久利生が初めてキスを交わすのは、ドラマから6年後の2007年に公開された、劇場版の第1弾でのことだ。その“永すぎた春”は、さらに15年が過ぎた現在も続いているのではないだろうか。
キムタクドラマ史上、最も魅力的な「怒り顔」を持つヒロインは、検事になった今も久利生を叱咤激励しているような気がするのだ。
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