白井球審はなぜ佐々木朗希にあれほどエキサイティングしたのか

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感情の発散を受け容れる余裕をなくしている

 私は、喜怒哀楽を表情に出さないプロ野球選手ばかりだったら、プロ野球はつまらないだろうと思う。投手が全員ポーカーフェイスで、球審の判定にも表情を変えず、淡々と投げる投手ばかりだったら、見ていてあまり燃えないだろう。選手たちと喜怒哀楽を共にし、喜びや怒り共有するからこそ、応援に熱がこもる。この点を山崎氏に尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「以前はね、阪急ブレーブスのアニマル投手とか、マウンドで大きなリアクションを取る投手もいましたよね。ほかにも、あからさまに判定に不満を表す投手もいました。誰とは言いませんが、センター方向を向いて大声で怒鳴ったり、スパイクで土を蹴り上げたりね。でも、私は放っておきました。こっちに向いて言うわけじゃないし、そうやって自分の気持ちを鎮めるのも投手たちの方法だと思いましたから。最近は、プロ野球界がそういう感情の発散を受け容れる余裕をなくしているかもしれませんね。それはそれでつまらないですね」

 かつては、抗議を受けた球審が、「俺がxxだ、文句があるか」と胸をそらし、選手や監督を一蹴した武勇伝も数々あった。最近はなんだか、綺麗ごとばかりで、スケールが小さくなっている感があるのは社会の風潮の反映かもしれない。すべてが善か悪かの判断で、なんでも対立構造で語られる。そこにユーモアや笑いが足りない……。

完全試合の重圧

 白井球審の行動が、ちょっと過剰だった、洒落にならない、という大方の感想は否定しようがない。せいぜいホームベース上くらいの位置に立って佐々木に注意を与えれば十分だった。

 なぜ、白井球審はそれほどエキサイトしたのだろう。伏線はいろいろあるだろう。初回から走者のアウトセーフをめぐってリクエスト合戦になっていた。審判団にとっては序盤からストレスのかかる展開だった。そして佐々木朗希は、完全試合を達成した試合でもそうだったが、案外、判定に対して怪訝な表情を隠さない。3年目の新人にしては大胆不敵だなあと私もドキッとしたくらいだ。この試合でも初回からそんな場面があった。白井球審は、そのことにも指導の必要を感じていたのかもしれない。

 それともうひとつ、17イニング完全投球が続く中で始まった試合、最も重圧を感じ、不安と戦っていた一人が白井球審だったのではないか。完全試合は、四死球もエラーもダメ。「だから守る野手たちの重圧もすごい」と、先日の快挙の時もさんざん語られた。それは審判も同様かそれ以上だという。山崎氏が自らの経験をふまえて話してくれた。

「私は一軍では完全試合に立ち合っていませんが、ノーヒットノーランは3度あります。2軍戦では大洋(現横浜DeNA)の増本宏投手が完全試合を記録した時、2塁の塁審を務めていました。7回くらいからの緊張はもう半端じゃありませんでした。一つひとつのアウトセーフが記録に影響しますから」

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