ウクライナ戦争はこのままでは泥沼化…バイデン大統領の対応にこれだけの疑問符

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 ロシアのウクライナ侵攻から2ヶ月が経ったが、紛争が沈静化するどころか、今後さらに激化する可能性が高まっている。

 3月からロシアとウクライナの間の停戦協議が断続的に行われてきたが、ウクライナ首都のキーウ近郊のブチャで多数の民間人の遺体が見つかった4月上旬以降、目立った進展はなくなってしまった。

 ロシアのラブロフ外相は4月19日、同国によるウクライナ侵攻が「新たな段階」に入ったと述べた。ウクライナ東部ドンバス地方で戦闘が激化しており、ラブロフ氏の発言はロシア軍による大規模な攻撃開始に言及したものとみなされている。

 これに対し、西側諸国は重火器の追加供与を含むさらなる軍事支援を準備している。

 ブリンケン米国務長官が欧州の同盟国に対し「ウクライナでの戦闘は今年末まで続く可能性がある」と伝えるなど、ウクライナ危機は泥沼の様相を呈し始めている。

 欧州地域で久しく経験していなかった大規模な戦争が勃発してしまったがために、沈着冷静であるべき政府首脳までもが激しく動揺している印象が強い。そのせいだろうか、もともと反ロシア色が強かった西側諸国では「戦略的思考」がすっかり消えてしまい、ロシアへの「怒り」の感情一色に染まっていると言っても過言ではない。

 ウクライナ側の抵抗は予想をはるかに上回る見事なものだった。SNSをうまく使っているので、私たちは「ロシアは負け戦となっている」とついつい思いがちになる。

 だが、ウクライナ側の軍事的抵抗の成功を喜んでばかりはいられない。

米国がもっと前面に出てくるべき

 ウクライナ軍が強く抵抗するほど、ロシア軍はより攻撃的になるからだ。戦闘が激化の一途をたどれば、「1980年代に旧ソ連が侵攻したアフガニスタンのようにウクライナ全土が焦土と化してしまう」との悪夢が頭をよぎる。

 このような悲劇を繰り返さないためには早期の停戦合意が不可欠だ。だが両者の隔たりは大きく、国際的な仲介なしでは停戦実現は難しい。

 ロシアとウクライナの停戦を仲介するためにトルコなどが精力的に動いているが、筆者は「米国がもっと前面に出てくるべきではないか」と考えている。

 戦闘の前線に米兵は派遣されていないが、米軍はロシア軍との間で実質的な戦闘状態になっているからだ。米国からの巨額な支援のおかげで欧州有数の軍事力を有するようになったウクライナは、米国の軍事衛星からの情報に支えられてロシア軍の侵攻を必死に食い止めている。「自国民の死者を出したくない米国は、ウクライナ人を盾にしてロシアと戦っている」との批判も出ているぐらいだ。

 ウクライナ政府に最も影響力を持っている米国のバイデン大統領だが、停戦合意に向けた環境整備を行わないばかりか、むしろこの動きを阻害しているようにみえる。

 バイデン大統領はプーチン大統領のことを「殺人者」「戦争犯罪人」と呼ぶことにまったくためらいを感じていない。このような発言はロシア側の反発を募らせるばかりで、事態を沈静化させようとしている国際社会の努力に水を差す形になっている。

 バイデン大統領はプーチン政権打倒を示唆する発言も繰り返している。

 米国の地政学的大目標が「ロシアを自国に対抗できない従属的な地位に追いやること」であることは明らかだが、ウクライナ危機を決着させる具体的なプランを持っていないのではないかと思わざるを得ない。

 米国政府は「ロシアの体制転換を望まない」と表明しているが、ウクライナとの戦いでの勝利に固執するプーチン大統領が政変などで排除されなければ、ロシアが外交交渉に転じる可能性は少ないと見ている節がある。

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