大阪桐蔭がセンバツで優勝 スカウティングだけではない「有望な中学生」が集まる理由

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「東京六大学に進みやすい」

 それに加えて、多くの選手が下級生からレギュラー格としてプレーしている点も特徴的だ。大阪桐蔭の西谷浩一監督は、大学や社会人のチーム事情を考えながら、選手に進路先についてアドバイスをしているという話も伝わっている。こうした戦略も、有望な中学生から選ばれるチームである要因の一つだ。

 関東地方にある中学硬式野球クラブチームの監督は、大阪桐蔭の魅力について、以下のように語る。

「『甲子園に出場できる』、『甲子園で勝てる』というのはもちろんですが、選手の保護者は、『東京六大学に進みやすい』『名前の知られた大学に良い条件で進学できるか』という点を見ていますね。やはり、保護者からすると、野球が強いだけはなく、進学実績で優れた大阪桐蔭は、非常に魅力的だと思います」

 ここで、再び今大会のプレーに話を戻したい。

 筆者が、現地取材を通じて、大阪桐蔭の強みを感じたのは、基本的なプレーが徹底されている点だった。試合前に行うシートノックを見ていると、内野手も外野手も“送球の安定感”が他のチームとは全く違っていた。1回戦の鳴門戦でのシートノックをじっくり観察したところ、実際、送球ミスが一つもなかった。

 守備のミスといえば、一般的に送球による起因するものが多く、結果的に致命傷になりやすい。今大会の大阪桐蔭は、歴代のチームと比べると、少し守備に不安があったものの、送球ミスの少なさは、全出場校の中で頭一つ抜けていた印象を受けた。

「大阪桐蔭の一強」を崩すような奮起

 これに加えて、走塁面も基本が徹底されていた。内野ゴロや平凡なフライでも決して、足を緩めることなく、ベースを走り抜けていた姿が多く見られた。

 それを象徴するシーンが決勝戦でもあった。1回表、1番の伊藤櫂人が放った打球は、ショート後方への高いフライとなる。伊藤は、この当たりに対して、最初のスタートこそ少し遅れたものの、そこから一気に加速。相手がエラーをした間に、一気に三塁を陥れた。結果的に、これは続く谷口勇人の先制タイムリーへの“呼び水”になっている。

 高校野球といえば、「全力疾走」というイメージがあるかもしれないが、実際、それを徹底できているチームはほとんどない。大阪桐蔭は、こうした面でも相手に隙を見せないところが強さに繋がっている。

「強いチームを強すぎる」と批判するのではなく、その強さから学んで、さらに強いチームを作ろうとしていく姿勢が、高校野球全体の競技力向上に繋がっていくはずだ。他のチームは、今回の結果を悲観するのではなく、あらゆる手段を駆使して「大阪桐蔭の一強」を崩すような奮起を期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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