プーチンと国際柔道連盟会長の蜜月、山下泰裕全柔連会長が“やるべき事”を溝口紀子教授が語る

国際

  • ブックマーク

Advertisement

 ロシア軍によるウクライナ侵攻の張本人である「柔道家」プーチン大統領に、国際柔道連盟(IJF)の対応が中途半端なのはなぜか。そして本家本元である全日本柔道連盟の役割は。「今こそ、山下(泰裕)会長は世界へメッセージを発信してほしい」と訴える、女性柔道家、バルセロナ五輪女子52キロ級銀メダリストでフランスナショナルチームのコーチでもあった日本女子体育大学の溝口紀子教授(スポーツ社会学)に伺った。(粟野仁雄/ジャーナリスト)

 ***

――国際柔道連盟(IJF)のビゼール会長のプーチン大統領への対応はどうだったのですか?

溝口教授:3月7日、国際柔道連盟はウラジーミル・プーチン大統領とアルカディ・ローテンベルク氏について、すべての役職から解任しました。最初は「停止」としていましたが、世界チャンピオンでモデルのウクライナ出身のダリア・ビロディド選手が、SNSで現地の悲惨な状況や戦争反対を呼びかけるなどしたことで世論が強まり、IJFがプーチン氏を擁護できなくなったのです。

 2月27日、ウクライナ侵攻を受けて欧州柔道連盟(EJU)は、プーチン大統領の名誉会長の地位を剥奪すると発表しました。さらに2007年からEJUの会長を務めてきたセルゲイ・ソロヴェイチク氏も辞任を表明しました。一方、IJFのビゼール会長が「はく奪」まで踏み切らなかった背景には、ロシアマネーを巡ってのプーチン大統領との深い関係があります。

 IJFのローテンベルク副会長は、プーチン大統領に近いオリガルヒ(寡頭政治体制)の富豪です。ビゼール会長は彼の人脈を利用し、IJFに多額のロシアマネーを入れてきました。柔道の国際大会に賞金制度を取り入れたのもビゼール会長ですが、これは潤沢なロシアマネーがあってこそ可能になったものです。ロシアには恩義があるから、プーチン大統領やロシア柔道界を完全に切って捨てることはできない。いわばビゼール会長の「忖度」の表れです。彼はプーチン大統領の後ろ盾で欧州柔道連盟会長、国際柔道連盟会長に就任できたとも言われています。プーチン大統領を名誉会長に就任させたのはビゼール会長で、「持ちつ持たれつ」「ずぶずぶの関係」と言ってもいいかもしれません。

五輪休戦協定に違反

――ビゼール会長は、他競技に先駆けて国際大会で難民選手団を作るなど人道面でも積極的な人物でしたね。

溝口教授:ルーマニア人の彼は、故国の政変で亡命同然で国外に移住するなど苦労したようです。現役時代は目立った選手ではなかったですが、東欧でのカジノの経営などで成功し、欧州連盟の会長を経て、世界の柔道界のトップになりました。

 ビゼール会長は、東京での世界選手権(2019年)で、イランのサイード・モラエイ選手がイスラエル選手と対戦しそうになり、それを禁じる祖国政府筋から脅迫された時、モラエイ選手を急遽、ドイツへ逃がす手立てをするなど、とても人道主義的な配慮のできる人でした。しかし、今回のウクライナでのロシア軍の惨殺ぶりは、そんなことを超えた事態です。これに対しては、「忖度」などではない対応や説得がプーチン大統領に対して必要だと思います。

 ロシア軍は北京五輪の五輪休戦協定の期間にもかかわらずウクライナに侵攻しましたが、これで3度目の協定違反です。2008年の北京夏季五輪開会式の日にグルジア(ジョージア)へ侵攻していますし、開催国だった2014年のソチ冬季パラリンピックでは、開催直前にクリミア半島へ軍事介入した。「平和の祭典」であるはずの五輪もプーチン大統領の前では全く無力だったどころか、ロシアによる度重なる協定違反で五輪の存在意義が問われる事態に陥っているのです。

次ページ:山下会長の役割は?

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。