異国にたった一人で…米国にゴルフ留学中のウクライナ人女子大生を奮い立たせた一枚の写真
「すぐそばに爆弾が投げ込まれた」
エルさんがゴルフクラブを握ったのは7歳のころだった。ウクライナの冬は寒くて雪に覆われるため、ゴルフシーズンは5月ごろから10月ごろまでと短いそうだが、それでも彼女はぐんぐん上達し、母国のトップ女子ジュニアになった。
プロゴルファーを目指すなら、恵まれたゴルフ環境と一流のゴルフ教育が得られる米国の大学に進むべきと考えたエルさんは、カリフォルニア大学デービス校に留学し、充実した日々を送っていた。だが、ロシアによる侵攻が始まってからは、母国の家族の安否を気遣い、眠れない日々を過ごしている。
彼女の自宅はウクライナの首都キエフにある。侵攻後、彼女の父親はすぐにキエフを発ち、近郊の街に住む自身の両親を少しでも安全と思われる場所へ避難させた。エルさんの母親と2人の妹は、母親の両親が暮らしている実家へ身を寄せた。そこには、地下室やシェルターこそ無いが、ウォークイン・クローゼットならぬウォークインの大きな本棚があり、母親と妹たちは本棚の中身をすべて引っ張り出して、そこをシェルター代わりにして身を潜めているという。
エルさんは家族とスマホでお互いの無事を確認し合い、励まし合っている。とはいえ、いろんな意味で制約があり、最低限のやり取りしかできない。14歳と10歳の妹は、米国にいる姉のエルさんにスマホでメッセージを送ってくるが、「怖いよ」「爆発音が聞こえるよ」「すぐそばに爆弾が投げ込まれた」といった文面ばかりだった。エルさんと母親が電話で話をしていると、その背後からは妹たちのすすり泣きが聞こえてくる。
赤い夕陽が戦火に見える
今すぐウクライナに飛んで帰りたい、両親や妹たちと一緒にいたいという気持ちが胸の中で膨らむ。しかし、彼女は必死に思いとどまっている。ゴルフ部のコーチやチームメイトは、そんなエルさんをなんとかして励まそう、力になろうとしているという。
「エルさんを一人にさせないように!」というコーチの声掛けで、チームメイトたちはエルさんと一緒に授業に出たり、ゴルフの練習をしたり、ランチやディナーを食べたり、誰かがそばにいるよう心掛けた。コーチもエルさんから何を尋ねられても迅速に正確に答えられるよう、戦争に関する最新情報の収集に余念がない。
ゴルフ部は一丸となってエルさんを支えていた。だが――。エルさんは練習場で練習ボールが機械から出てくる際の「ガラガラガラ」という音を聞くだけで、それが爆撃音に聞こえ、赤い夕陽や夕焼けを見ると、燃え上がる戦火のように見えてしまうという。
[2/3ページ]