ウクライナ侵略でいよいよ他人事ではなくなった… 沖縄・石垣市の市長選で考えた尖閣有事

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 ロシア軍によるウクライナ侵略が始まった2月24日、筆者は尖閣諸島を行政区に持つ沖縄県石垣市にいた。27日に投開票が迫った市長選を取材するためである。4選を目指す自公推薦の中山義隆氏(54)に対し、保革相乗りの元市議で新人の砥板(といた)芳行氏(52)が「政治信条や立場の違いを乗り越えた大同団結」を訴えて出馬した。沖縄では珍しくない選挙戦の構図だ。対艦ミサイル部隊を含む陸上自衛隊の配備計画が着々と進む中、新人候補は配備計画を問う「住民投票実施」も公約に掲げた。陣営の支持組織を考えれば、その主張は事実上の陸自配備の撤回とも思われた。結果は1万4761票を獲得した現職の中山氏が1万2307票の砥板氏を振り切った。尖閣の海域で中国海警局の大型公船による領海侵犯が日常化し、小さな漁船を追い回しては威嚇している現状を考えれば、石垣市民の賢明な選択だったように思う。その中国が、独裁者プーチン率いるロシア軍によるウクライナでの殺戮と破壊を遠巻きに眺めているだけの現状を見ればなおさらである。
(ジャーナリスト・皇學館大學特別招聘教授 椎谷哲夫)

中国漁船の体当たり事件と工作船銃撃の巡視船「みずき」は今も現役だった

 2月の石垣島は雨が多いと言われるが、例年に増して今年は長く強い風雨に見舞われた。それでも珍しく青空がのぞいた朝、石垣市中心部からそう遠くない海上保安庁の基地まで歩いた。第十一管区海上保安本部(那覇市)に所属する日本最大の石垣海上保安部だ。令和3年(2021)11月に配備されたばかりの最新鋭ヘリコプター搭載型巡視船「あさづき」(6500トン)を含む巡視船15隻を所有し、約600人の海上保安官が24時間、交代で領海や接続水域を守っている。尖閣諸島の警備には、那覇海上保安部のヘリ搭載巡視船(3100トン級)の2隻も加わる。

 停泊中の「JAPAN COAST GURARD」のブルーの文字も鮮やかに、一隻の巡視船が警笛を鳴らして動き始めた。総トン数1300トン、全長89メートルの巡視船「はてるま」だ。ここから170キロ離れた尖閣諸島の海域に向かうのだろう。乗員30人、速力30ノット(時速55.6キロ)。30ミリ機銃一基を備えている。

 意外かもしれないが、ここでは誰でも近づいて巡視船を見ることができる。散歩中だという初老の男性がこんなことを言っていた。「外国人と思われる男たちが時々やってきて、堂々と巡視船や岸壁の上空でドローンを飛ばしていると聞いています。規制する法律がないからどうしようもないそうでですがね」。

 岸壁には小型の「みずき」という巡視船(180トン)も停泊していた。平成22年(2010)9月、尖閣沖で巡視中、同僚船とともに違法操業の中国漁船に体当たりされた船である。この事件では、那覇地検が、海保に逮捕された船長を突然、処分保留で釈放した。菅直人首相は国連出席で日本にいなかったが、こんな判断を地検が単独でできるはずがなかった。11月になり、義憤にかられた海上保安官によって44分間にわたる動画がYouTubeで“公開“されたのは記憶に新しい。実はこの巡視船「みずき」は平成13年(2001)12月、奄美大島沖での北朝鮮の工作船との銃撃戦にも加わったことで知られる(工作船は自爆、沈没)。今も現役で活躍する歴史の“生き証人“なのだ。

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