【鎌倉殿の13人】べらんめえ調でアウトロー臭も…異彩を放つ佐藤浩市で思い出す名優

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似てきた父子

 佐藤はNHKドラマ版「クライマーズ・ハイ」(2005年)では上司たちに反抗する新聞社のデスクに扮した。映画「Fukushima50」(2020年)では東京電力本店の指示より地域住民と部下たちの安全を優先する福島第1原発1、2号機の当直長を演じた。広常はハマり役に違いない。

 三谷氏が脚本を書く大河への出演は「新選組!」(2004年)に次いで2回目。前回は初期の新選組の局長を務めた芹沢鴨を演じた。これまた周囲と折り合おうとしないアウトローだった。

 名優だった父親・三國連太郎さんも映画「新選組」(1969年)で芹沢を演じている。この映画を観てみると、佐藤の仕草やセリフの言い方が三國さんとそっくりであると分かり、驚かされる。

 父子だから当たり前なのだが、近づこうとする者を後ずさりさせるような威圧感があるところも同じ。ただの暴れん坊ではなく、どこか哀しみを背負っているように感じさせるところまで一緒なのだ。

 ここにきて父子がますます似てきた。鋭い眼光、大きな涙袋、ほおと口元といった外観ばかりではない。佐藤は映画デビュー作「青春の門」(1981年)で伊吹信介を演じた時には2枚目俳優だったが、今や日本を代表する性格俳優に違いない。三國さんと同じだ。

 このドラマの第7話で広常は義盛と義時にこう言った。

「はっきりしてることが1つだけある。この戦、オレがついたほうが勝ちだ。さぁ、正念場だよ」(広常)

 嫌味なセリフだが、不思議とそう感じさせなかった。板に付いているからだ。佐藤はクセのある人物を魅力的に演じるのが抜群にうまい。

 この場面を観た時、映画「大病人」(1993年)での三國さんを想起した。ガン患者役の三國さんは故・津川雅彦さんが扮した医師を怒鳴り散らした。

「おまえのメスのためにオレの体があるんじゃない。オレの幸せのためにおまえのメスがあるんだ。思い上がるんじゃない!」(三國さんが演じたガン患者の向井)

 身勝手な言葉で、ほかの俳優が口にしたら顔をしかめたくなるかも知れないものの、三國さんが演じると、そうならない。佐藤と同じく、役を完全に自分に引き寄せているからだ。死を恐れる男が、子供のように助けを求めている心情が伝わってきた。

 2013年に90歳で他界した三國さんは4回結婚した。佐藤は3度目の結婚相手の子供。三國さんは佐藤が小5の時に家を出たので、演技指導をしたことはない。ワンシーンのみだった「人間の約束」(1986年)を除けば、父子共演も映画「美味しんぼ」(1996年)のみ。それでも名演が伝承されたのだから、血は争えない。

 三國さんは亡くなる前年の2012年に公開された映画「わが母の記」に出演した。生涯、現役だった。円熟期に入った佐藤の今後の仕事も注目される。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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