冬ドラマ 視聴率抜きで選んだベスト3 それぞれに敢えて難点もあげると――

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 1月期ドラマが間もなく終わる。民放のプライム帯(午後7時~同11時)には10本あるが、面白い作品がある一方で続けて観るのがシンドイ作品もある。視聴率を度外視したベスト3を挙げてみたい。

「妻、小学生になる。」(TBS)

 原作の同名漫画もヒット作だが、大島里美さんによる脚本が出色だった。

 荒唐無稽な物語のようで、一定のリアリティと説得力がある。仏教が広く浸透し、魂の存在や輪廻転生思想がどこかで信じられている日本の国柄のせいもあるだろう。

 第1話から出ている寺カフェ「喫茶たいむ」のマスター(柳家喬太郎)も仏僧である。常連客の中村(東京03・飯塚悟志)らに対し、「(魂が)見える」などと言ってカネを取り、ふざけたオヤジだと思っていたら、このマスターが狂言回しだった。観る側に魂の存在を繰り返し説いてきた。

 10年前に交通事故死した貴恵(石田ゆり子)の魂はずっと成仏できていないのだ。自分の死後、主人公で夫の新島圭介(堤真一)は脱け殻状態になってしまったし、一人娘の麻衣(蒔田彩珠)も生気が失われたからである。まさに死んでも死にきれなかった。なにより、貴恵自身が愛する2人と離れたくなかったのだろう。

 成仏できなかった貴恵が、白石万理華(毎田暖乃)に乗り移った理由は誰もが想像する通りに違いない。万理華がシングルマザーの母・千嘉(吉田羊)から辛い仕打ちを受け続け、この世から消えたくなくなりたかったためだ。

 万理華に貴恵が乗り移ったのは第1話の序盤。小学校からの帰り道だった。これがポイントだ。千嘉の待つ家によほど帰りたくなかったのである。

 一方、千嘉だけを悪者にする気にもならない。夫は千嘉と万理華を置いて出て行き、身勝手な不倫相手には捨てられ、頼れるはずの自分の母親もろくでなしだからである。

「(母親は)私という存在にまるで興味のない人だった。突然キレて物を投げつけるなんて、しょっちゅう」(千嘉、第7話)

 この物語を紡ぐ時、千嘉を救いようのない母親にしてしまえば、簡単だ。分かり易いハッピーエンドにすることも出来る。万理華が千嘉を捨て、貴恵になったままにすればいい。

 だが、この物語はそうしない。一人ひとりの人間がリアル。現実には根っからのワルなんて、そういないのである。

 第5話で千嘉は万理華に心ないことを言った後、圭介に向かって「万理華を返して!」と叫んだ。矛盾するが、これもまた千嘉の真実にほかならない。人間は複雑極まりない。

 これからどうなるか。第7話の後半で圭介が、寺で新島家と白石家の末永い幸せを祈ると、狂言回しであるマスターは「末永い幸せよりは今を楽しむことね」と説いた。この言葉が今後を指し示しているはず。

 マスターの言葉の直後、貴恵は万理華に戻った。このままなのか、再び貴恵が乗り移るのか。少なくとも貴恵がやっと成仏できる状態に近づいたのは間違いない。

 圭介はきちんと仕事に取り組めるようになり、年下の上司・守屋好美(森田望智)に惚れられるまでになった。麻衣もホームページ制作会社で働き始め、仕事を通じ知り合った愛川蓮司(杉野遙亮)と交際し始めた。

 貴恵の弟で漫画を描いている友利(神木隆之介)も生きることに前向きになった。また千嘉も一時的に万理華を失ったことにより、万理華の大切さを痛感している。

 もう貴恵が現世に留まらなくてはならない理由は消えた。みんな貴恵が問題を解決してくれた。残された者は貴恵の思い出を胸に新たな道を歩き始めるのではないか。悲しいが、それが自然の摂理。感涙にむせぶラストが待っているはずだ。

 この物語は面白いのみならず、さまざまなことを考えさせてくれる。その点でも優れていると思う。

「今、大切な家族に先立たれたら、どうするか」「自分が突然死んだら、残された家族はどうなるのだろう」

 大島さんによる人物描写が繊細で、出演陣にうまい人が勢ぞろいしたから、自分と登場人物を重ね合わせて観ることが出来る。

 特に毎田の演技が評判だ。確かにうまい。目の動きや仕草には舌を巻く。万理華との演じ分けも見事と言える。半面、毎田の演技を受けている堤、吉田、神木、森田、蒔田らの演技も讃えられるべき。堤たちが毎田をフォローしているから、毎田の演技はより引き立っている。

 一例は第6話。公園のシーソーに座っていた圭介は、貴恵が乗り移っている万理華に「それが余計だって言ってんの」とたしなめられ、額をはたかれた。すると後ろに倒れ、気まずそうな顔をした。まるで母親に叱られている子供で、毎田のほうが大人に映った。こういった演技が毎田を支えている。

 ゲストも良かった。第7話に女優としても名高い歌手の由紀さおり(75)が出た。貴恵の母親で認知症を患っている礼子役だった。

 外観は万理華の貴恵は理由を言わず、礼子に向かって泣きながら繰り返し謝った。「ごめんね……」。逆縁以上の親不孝はないからである。一方、正気を失っているはずの礼子は、外見は万理華の貴恵の頭をなでながら目を細めた。心底、うれしそうに。

「よく来たね。遠いところから……」

 礼子が、目の前にいる万理華が貴恵だと気づいたのかどうかは分からない。遠い死後の世界から来たのかどうかも。

 それは観る側の想像に任せられた。脚本を書く大島さんが余白をつくった。やはり出色の脚本である。

 あえて難点を挙げると、なぜ、ほかの1月期ドラマより1、2週遅れの1月21日にスタートさせたのだろう。視聴者の都合を最優先で考えると、ほかのドラマに合わせるべきだったのではないか。

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