借金を「絆」と呼び… 相席スタート「山添寛」はニュータイプのクズ芸人である理由

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 昨今のお笑い界では「クズ芸人」と呼ばれる芸人がどんどん増えており、ちょっとしたブームになっている。借金や遅刻癖や女癖の悪さなどの人間として問題がある要素を持つ芸人たちが注目を集めているのだ。

 クズ芸人と呼ばれる人にもさまざまなタイプがあるが、代表的な特徴としては、ギャンブル好きで借金を重ねていることや、その場しのぎの言い逃れをする虚言癖があることだ。岡野陽一や空気階段の鈴木もぐらは多額の借金を抱えているし、コロコロチキチキペッパーズのナダルや安田大サーカスのクロちゃんは、先輩にも平気で毒づくなどの常人の理解を超えた非常識な言動で知られている。

 そんなクズ芸人戦線に新たな芸人が名乗りを上げた。相席スタートの山添寛である。彼は自らを「クズ紳士」と名乗り、紳士的な外見と態度を保ちながら、内面はクズというギャップを売りにしている。

 相席スタートは、実力派の男女コンビとしてお笑い好きの間ではすでにその名が知れ渡っている。リアルな大人の男女の恋愛模様や女性心理を題材にした漫才やコントを演じて独自のポジションを築いた。2016年には「M-1グランプリ」の決勝にも進んだ。

 相方の山﨑ケイは山添より芸歴も年齢も上であり、女性心理を扱うネタが多かったこともあって、コンビとしては山﨑の方が目立っていて、山添は存在感が薄かった。

 だが、最近になって、山添が1人でバラエティに出ることも多くなり、クズ芸人としてのキャラクターが注目されるようになっている。

 最近、彼にスポットが当たったのは、朝の情報番組「ラヴィット!」(TBS)に出演したときのことだ。山添は視聴者プレゼントのためのキーワード発表を任されると、「ラヴィット涙の最終回」という誤解を招くようなキーワードを出して、スタッフと司会の川島明をあきれさせた。その後の出演時にも、「ラヴィット深夜へお引越し」「ラヴィット実は収録だった」といった事実とは異なるキーワードを出し続けて、川島の怒りを買っていた。

 そんな山添は最近、クズ芸人の新星としてほかのバラエティ番組にもたびたび出演している。彼のクズ芸人としての特徴は、借金、ギャンブル好き、浮気癖、酒浸り、虚言癖など、「クズ芸人」と言われる人の要素をすべて兼ね備えていることだ。でも、態度だけは妙に自信満々で落ち着いているため、それが逆に不気味である。

 いわば、ほかのクズ芸人と呼ばれる人たちがそれぞれ持っている悪い部分をすべて煮詰めて発酵させたのが山添なのだ。ただ、見た目はこぎれいで「中途半端な二枚目風」でもあり、芸人としての基本的な能力も高い。だからこそ内面のクズな部分との落差が大きく、そこが人々に衝撃を与えている。

 山添は借金のことを「絆」と呼んでいる。彼は相方の山﨑にも金を借りており、その状態のことを「絆がある」と表現している。また、返済を「ご挨拶」、浮気を「寄り道」と言ったりもしている。自らのだらしない行為を正当化する「山添用語」から漂ってくるクズの臭気に息が詰まりそうだ。

 振り返ってみると、コンビとして注目されていた頃から、山添にはクズの片鱗が感じられた。彼らの演じるネタの中には、山添がどうしようもないダメな男を演じるものがしばしば見受けられたからだ。たとえば、女性に何を言われても「そう言ってくれて良かった」の一言だけで乗り切ろうとする男を演じる漫才では、山添のクズ芸人ならではの常人離れした発想が光っていた。

 相方の山﨑に比べるとキャラが薄く、「じゃない方芸人」のように扱われることも多かった山添が、ここに来てニュータイプのクズ芸人としてブレークのきざしを見せている。今後の動向を見守っていきたい。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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