介護大手「ニチイ学館」のMBO成立で問題視された「創業一族ファースト」のマネーゲーム

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利己主義的

 ここ数年、MBO(経営陣が参加する買収)を利用したM&A(合併・買収)が増えている。今年2月に入っても、トヨタ系自動車販売店を運営する「ATグループ」や、パソコン周辺機器で成長してきた「アイ・オー・データ機器」などが相次いでMBOを公表。その今後に関心が寄せられているが、MBOという手法におけるプロセスの公正さが問題視された例もある。介護大手「ニチイ学館」の案件だ。

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 ニチイ学館の創業者である寺田明彦会長が83歳で急逝したのは、2019年9月。その親族にはおおよそ200億円相当の株式が残された。

 一方で、親族としては莫大な相続税の支払いのため、相続した株式を処分するほかなかったが、当然、市場で大量に売り払えば値崩れを起こし、大株主の地位も失いかねない。この二つの難問を一挙に解決する「スキーム」を編み出したのが、米投資ファンド「ベインキャピタル」である。

 まず、ベインが270億円を出資し、受け皿会社を設立。続けて、受け皿会社がメガバンクなどから986億円を借り入れ、それを元手に20年5月、ニチイ学館にTOB(株式の公開買い付け)を仕掛けた。TOB価格は、前日の終値1094円にプレミアムを上乗せした1株1500円。

 創業一族が応募したTOBが成立後、受け皿会社は25%の株を持つ筆頭株主の「明和」を傘下に収める。さらに、創業者一族が受け皿会社に再出資し、ニチイ学館を子会社化したうえで上場廃止にすればMBOが完了するという筋書きだった。創業一族は相続税のためのキャシュを得たうえで、引き続き間接的な大株主として経営権を保ち続けられる。

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