「渡部建」で議論百出 「薬物逮捕より仕事復帰が遅いのはおかしい」という意見を考える

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今後は「いかに『空気』に許しを乞うか」

 芸能プロにとって薬物は会社の存亡に関わる問題。ひとたび薬物で所属タレントが逮捕されると、芸能プロは数千万単位、数億単位、あるいは数十億円単位で、CM等の違約金を払わなくてはならないからである。本来はタレント自身が払うものであるものの、大抵は有り金をはたいても間に合わないので、芸能プロが肩代わりを迫られる。

 そのリスクを事前に回避するため、ここ数年は所属タレントの薬物検査を実施する芸能プロが増えている。クロと判定されると、水面下で契約を解除することが多い。「やめろ」と口頭で注意しても容易にはやめられないのが薬物だからだ。

 片瀬那奈(40)の場合、昨年7月に同居人だった男性が麻薬取締法違反(所持)で逮捕されると、同9月に契約を解除された。片瀬に嫌疑は一切なかったものの、これもリスクを避けるためだったと見られた。

 芸能プロが薬物での有罪者を解雇するケースも増えた。やはり再逮捕のリスクも考えてのこと。薬物はほかの刑法犯とは異なる。ピエール瀧も解雇された。

 酒井法子(51)も2000年前半までなら事情は随分と違ったのではないか。2009年8月に覚せい罪取締法違反(所持)で逮捕され、懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受け、2012年12月に舞台で復帰したものの、これまでのテレビ出演はごく僅かだ。

 一方、不倫の場合、対象の人の個性と不倫の状況が空気を左右する。中村芝翫を責める声がほとんどなかったのは、「歌舞伎役者は浮気の1つや2つ当たり前」という古くからある空気と、三田寛子(56)のリカバリーからだろう。

 もっとも怒るはずの立場の三田が、取材陣に笑顔で対応する(本当に怒っていないかどうかは知らない)のだから、芝翫を責める空気が生まれにくかった。

 渡部の不倫が責められ続けているのも本人の個性と不倫の状況が理由で、許すまいとする空気があるからだろう。

 次代の芸能界でテーマとなるのは「いかに『空気』に許しを乞うか」ではないか。「どんな謝罪会見をすれば効果的か」などといった小手先のテクニック論とは違う。

 2010年、不倫スキャンダルの渦中にいて、性依存症の治療も受けた米国プロゴルファーのタイガー・ウッズ(46)は今、再び尊敬を集めている。一貫して社会貢献に熱心であることが背景にある。

 2020年5月には新型コロナ対策費を集めるための慈善ゴルフマッチを行い、そのテレビ中継の間に約2000万ドル(約23億円)の寄附を集めた。

 また自分が生まれ育ったロサンゼルス郊外アナハイム地区に子供たちの無料学習支援施設「タイガー・ウッズ ラーニングラボ」をつくり、およそ30億円を投じた。

 メル・ギブソン(66)は2010年に元不倫相手からDVなどに対する慰謝料を求められ、裁判によって75万ドル(約8600万円)の支払いを命じられたが、やはり古くから福祉活動に積極的。2008年にはチャリティー団体に650万ドル(約7億5000万円)に寄附し、話題となった。

 ギブソンはDVの一件の後も活動を許されている。カネで免罪符を得たのではなく、自分の富を社会に再分配する姿勢が評価されているからだろう。

 2人は行動で米国民の間の空気を動かした。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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