まんまと「中国スゴイ」報道をしてしまう日本メディア 他に報じるべきことがあるのでは(中川淳一郎)

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 北京五輪が開幕しましたが、日本のTVがまんまと中国共産党の策略に乗せられていますね。あまりにも中国のハイテクと「厳格なコロナ対策を講じ、世界中の人々の命を守ろうと努力している」様を放送し過ぎ。これを見た日本の視聴者は「中国様の技術力にはもはやかなわねぇ~。中国企業様にオラ、就職するだ」となるかもしれません。

 日本選手団が中国入りした翌日の1月31日、朝の情報番組複数を見ると、取り上げられていたのは「食堂の自動調理システム」「そうして作られたものが自動で運ばれ、席まで降りてくる」「宿の部屋にロボットが食事を運んでくれる」「ロボットが消毒液を撒布している」「空港職員は防護服着用」「火炎放射器で消毒」などです。

 五輪については開催国の先端技術お披露目という見本市的な側面もありますが、日本は昨夏の東京五輪で「ボランティアスタッフのホスピタリティが素晴らしかった」「コンビニのレベルが高い」と海外メディア様から称賛された程度です。しかも、パラリンピック期間中、選手村を走る自動運転のトヨタの車が視覚障害の選手に軽傷を負わせ、自動運転オペレーターのトヨタ社員が書類送検される始末。

 取材するレポーターはとにかくネタが欲しいから目についた「オッ! すげー!」と思ったものを報じているのでしょうが、結局それが中国がいかに素晴らしいかのPRをしていることになっている。

 中国のさまざまな人権問題やら、コロナ発生源のくせに、「我が国は封じ込んでいる」と自慢げに世界各国を見下すような態度。そんな国の最新技術を「来てるね、未来!」と有難がって報じる日本のメディア。「中国の宣伝なんてしねーよ。オレはスポーツの報道をするために来たんだ」という割り切りができないのでしょうか。

 もちろん、派遣された取材陣は画期的な何かを日々報じる必要があって来ているのでしょうが、北京市民の盛り上がりの様子(ないしは冷めた様子)や、共産党による国威発揚策の紹介などを競技開始前はもっと報じてもいいのでは。どうせ、取材していい範囲というのは、先方が決めているわけで、都合の良いものしか見せない。そこにホイホイと乗っかったバカメディア人には呆れるわ。

 そうした意味で私が見事だと思ったのが2018年の平昌五輪の際、東スポが報じた「モルゲッソヨ像」です。一体これが何かといえば、会場近くにシルバー色の筋骨隆々で性器まで見せた謎の男の像が多数置いてあったのですが、この像の頭は覆面状の装飾がなされている。正式名は「弾丸男」ですが、どうしても巨大男性器のオブジェに見えるんですよ。

 東スポはこれが何かを知りたくて近くを通る韓国人に聞いたら「モルゲッソヨ(分からない)」と言ったことが記事化され、日本のネットではコレが「モルゲッソヨ像」として絶大なる人気を誇ったのです。

 あの時韓国政府は北朝鮮との融和をPRしたかったはずですが、それほど融和せず。だから韓国にとってはさほど重要ではないモルゲッソヨ像が注目された。その点、中国の外交力はさすがのしたたかさです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年2月17日号掲載

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