雪印「国産牛偽装」告発から20年 西宮冷蔵社長のいま 「13億円の負債は少しずつ返しています」

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二女の自殺未遂

 一方、家庭内には大きな悲劇が起きた。水谷洋一氏は告発の当時、妻と別居状態だったが、子供たちとは一緒に暮らしていた。二女の真麻さん(33)は当時、中学三年。私立高校への入学が決まっていたが経済苦で進学できなくなった。それを知った彼女の精神状態が不安定になる。17歳の時、あるオーナーの好意で安価に提供してもらい父と住んでいた会社近くのマンションの14階から飛び降りてしまった。命はとりとめたが頸椎を損傷し脇から下が完全麻痺、車椅子生活になってしまう。脳機能にも障害が残り、精神も不安定な時がある。 

 7年前から完全休業状態だ。冷凍施設はフロンガスを使う旧式で、現在の環境基準に適合していない。「施設を新しくすれば3億はかかる。半世紀前から取り外して置いてあった大きなコンデンサーの処理費だけでも110万円もかかったけど、これは寄付が集まって何とか払えました」と水谷洋一さん。

 長男甲太郎さん(40)は野球で知られる報徳学園高校から富士大学(岩手県)に進学していたが経済苦で中退を余儀なくされた。家業を引き継ぎ一時は7割近くまで回復させた。ある時、中国の食品会社から法律で決められた手続きを通さずに預けることを持ち掛けられた。甲太郎さんは悩んだ末に、父の信念を思い出して拒否したが、これを機に業績は再び悪化する。

 最近、結婚した甲太郎さんは社長職を継いだが生活のため、西宮市の別の会社でフォークリフトを運転している。「いっそのこと、廃業して土地ごとに売り飛ばせば何とかなるのでは?」と訊くと「全く考えていません。差し押さえられていて売るのも難しい。必ず再建させたい」と返ってきた。甲太郎さんはJust.iceという会社を立ち上げて再生を期する。スペルを繋げば「正義」を意味するJUSTICEだ。

「負債は13億円にのぼりますが少しずつ返している状況です。支援している人もたくさんいるし、僕らの判断だけで勝手にやめられません。親父は何があっても諦めたらアカンと言ってるし」と語る。

 1月に久しぶりに水谷洋一さんを訪ねた。「散髪に全然行ってない。行く金もないし」と仙人のような長髪になっていた。最近、筆者が在阪局のテレビを見ていたら、レポーターに「もう一度同じ状況になったら告発しますか?」と訊かれた水谷氏が「絶対にしません」と言っていた。気になった。「正義の告発で経済苦に陥り娘さんがあんなことになり後悔しているのでは」と思ったからだ。それを確認したら水谷さんは待ってましたとばかりこう言った。

「あれは話の前座で、すぐに反対のこと言ったのに、読売テレビがあそこで切ってしまったんや。意図的なのかは知りませんが、まあ読売らしいわ」と苦笑した。本当は「あの時は自分が甘く世間を信じていた。今度同じことがあったら、誰も信じられないという前提で策をもっと練ってから告発する」という主旨のことを続けて語っていたのだ。

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