【カムカム】物語を読み解く最大のキーワード「ひなたの道を歩く」の意味

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無駄のない時代描写

 藤本脚本の無駄のない点はまだ数多い。安子編に登場した聡明な少年・赤螺吉右衛門(石坂大志、10)の子供が、川栄李奈(26)がヒロインのひなた編に登場する。昨年11月に発表済みである。

 吉右衛門は安子の実家近くで荒物屋を営んでいた吉兵衛(堀部圭亮、55)の息子。ケチで利己主義だった父と違い、道徳的な少年だった。

 吉兵衛は1945年6月29日深夜、米軍による岡山への無差別爆撃で死亡した。第17話だった。吉兵衛は倫理観に欠けていたものの、空襲時は我が子に覆い被さり、タテになった。吉右衛門は父を軽蔑していたが、その死体にすがりながら「おとうちゃん!」と泣き叫び続けた。

 この作品における吉右衛門少年の役割も単に父を失う近所のかわいそうな子ではなかった。

 兄妹の独立資金を持ち逃げし、安子と姪・るいの未来を奪った算太(濱田岳、33)のその後も描かれるだろう。また、安子とるいはきっと和解する。そもそも2人の別離は誤解の産物なのだ。

 るいは安子が自分よりGHQ将校のロバート・ローズウッド(村雨辰剛、33)を大切にしていると思い込み、安子に義絶を言い渡した。

 その言葉に今度は安子が絶望する。「るいが私の幸せです」(第38話)と言い切るほど愛情深い母親だったからだ。安子の渡米は不思議なことではない。るいを忘れるため、日本を離れたかったのだ。

 時代描写も無駄がなく、必要十分なだけ。物語は安子が生まれた1925年から始まったが、戦地の再現映像はなかった。国内での軍事教練の場面もなし。それでも市民生活の不自由や戦争のむごたらしさが十分伝わってきた。

 第3話で安子はパーマをかけたかったものの、国の決定で禁じられてしまった。日中戦争の始まった1937年のことである。ドイツがソ連に宣戦布告した1941年には野球の甲子園が中止に。出場が夢だった稔の弟・勇(村上虹郎、24)が酷く落胆する。

 たった15分で戦争の悲劇を描き切ったのは第17話。安子は生後約10カ月のるいを連れて、嫁ぎ先の雉真家から実家の橘家へ里帰りした。母・小しず(西田尚美、51)と祖母・ひさ(鷲尾真知子、72)は喜色満面だった。

 ところが、その直後、先述した岡山への空襲があり、2人ともあっけなく落命。これが戦争の現実なのだろう。

 るい編の時代描写も厚塗りをしていない。「夢の超特急(新幹線)の概要」(第53話)などがニュースで報じられたり、それを登場人物たちが話題にしたりする程度。

 けれど時代は鮮明に表されている。1962年という設定だった第40話ではラジオから「スーダラ節」(ハナ肇とクレージーキャッツ)が流れた。

 るいが住み込みで働く竹村クリーニングの店内でのことだった。この歌だけでも当時の繁栄と平和が浮き彫りになった。

「チョイと一杯のつもりで飲んで いつの間にやらハシゴ酒…」

 ここで、あることに気づく。稔を含む約310万人の日本人が犠牲になった大戦の終了から、「スーダラ節」まで17年しか過ぎてないのだ。

 人間にはいくら金や権力を持っていようが自由にならないものがある。それは生きる時代。この作品を観ていると、あらためて痛感させられる。

 稔と安子が平和な時代に生まれていたら、安子とるいの3人で幸せに暮らしていただろう。安子とるいの誤解も生じていない。離ればなれになることもなかった。

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