「ミステリと言う勿れ」は動画再生回数も絶好調 「新しい正義」と「哲学」を盛り込む巧みさとは

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 17日に第2話が放送されるフジテレビの連続ドラマ「ミステリと言う勿れ」(月曜午後9時)の人気が早くも過熱気味である。初回の視聴率は上々で、動画再生回数も全局を通じて過去最高を達成しそうな気配。タイトルの通り、普通のミステリーではないところが最大の魅力に違いない。

 田村由美さん(38)の同名漫画を原作とするこの連ドラは王道の謎解きを楽しませてくれる。同時に「哲学」や「新しい正義」を考えさせる。そこが斬新で面白い。

 まず「哲学」。象徴的だったのは大隣署の青砥成昭警部(筒井道隆、50)が「真実は一つなんだからな」と主人公の大学生・久能整(菅田将暉、28)に言い放った場面。同級生殺しの疑いをかけられ、署に呼ばれていた久能は「真実は1つなんかじゃないですよ」と言い返す。

 久能はたとえ話で反論した。AとBという人間がいて、この2人が階段でぶつかり、Bが転落してケガをした。Bは「日ごろからAにいじめられている」と思っているから、今回も故意に落とされたと考えた。Bは何一つウソをついていない。だから真実である。

 一方、AにはBをいじめている認識が全くない。ただ一緒に遊んでいると思っていた。今回のBの転落も単にぶつかったことによる事故だと考えている。この話にもウソはなく、真実である。

 久能は「真実は人の数だけあるんですよ。でも事実は1つです」と結論付けた。真実は主観的なものだが、事実は誰から見ても変わらない客観的なものであるいうこと。哲学に属する話である。

 事実と真実の問題はウィトゲンシュタインら恐ろしいまでに賢い哲学者たちが研究テーマにしているくらいだから、難しい。そもそも物語の本筋とは関係がなかった。

 それを原作通りに盛り込んで来たのだから制作陣は野心的と言える。原作の持つ力に賭けたのだろう。それに多くの視聴者が共鳴した。

 視聴率は世帯が13.6%で個人全体が8.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。月曜9時台の番組の中で断トツ。特にF1層(20~34歳)の数字が高かった。ほかの層の水準も高水準だった。

 圧巻は動画再生回数。放送当日の10日と翌11日の2日間で計約145万も再生された。フジにとって史上最高値。他局を含めても記録的な再生回数だった。昨年10月期の「ラジエーションハウスII」の再生回数は同じ条件で計約94万だから、その1.5倍以上である。

 この作品は「新しい正義」も織り交ぜてある。まず断っておきたいが、正義とはヒーローが悪党をブッ潰すことばかりではない。

 誰もが平等で公正、自由に暮らせるようにするのも正義の1つ。社会正義である。政治学者のロールズらが論じた。これまた頭が痛くなるほど難解な話であるものの、この作品は分かりやすくした上で挿入している。

 風呂光聖子巡査(伊藤沙莉、27)が苦悩する場面もそうだった。署内の男性たちからパワハラやモラハラを受けていた上、阻害されていたため、退職を考えるほど思い詰めていた。署内での自分の存在意義が分からなかった。

 煩悶する風呂光に対し、久能は明解な答えを出す。

「オジサンたちって、特に権力サイドにいる人たちって、徒党を組んで悪事を働くんですよ。都合の悪いことを隠蔽したり、こっそり談合したり、汚いお金を動かしたり」(久能)

 久能は「僕は偏見の塊でだいぶ無茶なことを言います」と前置きしたものの、否定できる人はそういないはず。

「そこに女の人が1人混ざっているとオジサンたちはやりにくいんですよ。悪事に加担してくれないから。鉄の結束が乱れるから。風呂光さんがいる理由って、それじゃないですか。おじさんたちを見張る位置」(久能)

 こんなセリフがポンポン登場するミリテリーなんて、なかった。この場面では男女平等社会における新しい正義の一考察がさりげなく説かれた。押し付けがましくないところが良かった。

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