綺麗事と説明ゼリフが目立つ「日本沈没」 人間の業を描く海外ドラマに勝てない理由

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 地震、豪雨、海底火山の噴火と天災大国の日本。ここ最近は毎日どこかが揺れている。そんな現実とリンクしかねないディザスタードラマは正直大きな賭けだ。それでも踏み切ったのは、金も人も集まる日曜劇場だからこそ。Netflixで世界同時配信も始めたというので、さぞや迫力のある作品なのだなと期待した。「日本沈没─希望のひと─」の話だ。

 日本的な優しさと正しさと綺麗事を最優先すると人間が見えてこない。結果、作品の質を下げ、役者も浮かばれない。これを集金力と集客力のある枠がやり続けたら、本当に日本のドラマは廃れてしまうと思った。

 まず、沈没の描写。被災した方に配慮したのか、人が大勢亡くなる映像や主人公が負傷する場面はほぼ入れず。優しさはあるが、スペクタクルもヘッタクレもない。沈没は遠景の彼方にボヤけているのみで、危機感も臨場感もない。だったらなんで作ろうと思った? 冒頭、主人公の小栗旬が海底に吸い込まれそうになった場面はよかったのに。地面の裂け目に落ちたはずが、気づいたら救助されているし。目で見て肌で感じる危機が映像化されず。香川照之が必死の形相でシミュレーションを見せても視聴者まで伝わらず。百歩譲ろう。

 描こうとしたのはディザスター&パニックではなく、あくまで人間ドラマ。だからこそ豪華な役者陣を迎えたと解釈しよう。不安と絶望に直面したとき、人は何を思い、何にすがるのか。

 描かれたのは国民を救うために尽力する若き官僚たち。老獪な大臣(石橋蓮司)も、不甲斐ない首相(仲村トオル)も、日の丸背負って商売してきた大手企業も一丸となって海外移住に奔走。

 現実には世界各国で移民問題が国民を分断して政情不安を呼んでいるというのに、性善説に基づいた善意と希望に満ちた展開。アメリカと中国がこんなに心広くて話の通じる国だったら、世界はもっと平和やで。

 物語の中で唯一私欲に走った官房長官(杉本哲太)もいたが、瞬時に連行。事実を隠蔽した学者(國村隼)は罰せられるどころか調査に参加。このうえなく優しく仕上げ、肝心の国民の窮状と心模様は描かず。舞台はほぼほぼ霞が関と永田町。

 私が自分事と思えたのは、移民申請の条件を官僚たちが話し合う場面。法務省官僚(河井青葉)らが事実婚の家族や受刑者、高齢者の扱いを口にしたときだ。第8話にきてやっと。移民というか難民になった日本人親子の苦難を描いた『亡国記』(北野慶・著)を思い出した。

 説明ゼリフが過多なのもツライところ。妻(比嘉愛未)に逆三行半を叩きつけられた小栗(サレ夫)の心情、詐欺師呼ばわりで虚仮(こけ)にされ続けた香川の屈辱、妹を亡くした厚労省官僚のウエンツ瑛士の悲嘆などの心情描写は割愛または秒で終了。

 善人が説明ゼリフを延々しゃべらされて、愛と勇気と正義と理想を紡ぐだけでは、残酷な現実と人間の業を描き切る海外ドラマに到底敵わない。ドル箱人気枠のガラパゴス化。逆に、他局・他枠はチャンスだ。品行方正の定番はもういらんから、どんどん遊んでよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

2021年12月23日号掲載