国の面子にこだわるせいで…オミクロンで中国の「ゼロ・コロナ」政策が窮地に立たされる

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自国ワクチンにこだわる中国

 前述の鐘氏は「ワクチン接種率を上げて集団免疫を獲得することが重要だ」と主張した上で「中国製ワクチンの感染予防率(有効率)が70%だと仮定すると、理論上、中国が集団免疫を獲得するためには接種率が全人口の83%に達する必要がある。中国では総人口の82%がワクチン接種を完了しており、年末までに集団免疫を獲得する見込みだ」と自信のほどを示していた。

 だが香港大学の研究チームによれば、中国製(シノバック製)ワクチン接種を完了した25人のうち、オミクロン型を中和するために必要な量の抗体が得られた事例は確認されなかったという。同研究チームは今年6月「メッセンジャーRNAタイプの米ファイザー製ワクチンは不活化タイプの中国製ワクチンよりも10倍の中和抗体を作ることができる」ことを明らかにしていた。中国製ワクチンの有効率はせいぜい50%程度であり、時間が経つとその免疫効果もファイザー製ワクチンに比べて急速に弱くなることがWHOの研究で明らかになっている。

 南アフリカ最大の民間保険会社が14日に明らかにしたところによれば、ファイザー製ワクチンの2回接種でオミクロン型の感染を防ぐ効果は33%にとどまるという。感染予防のために3回目の接種が必要だとの声が高まっている。中国製ワクチンについても3回目の接種が始まっているが、ファイザー製のように感染予防効果が十分に高まる保証はない。中国製ワクチンの接種率が集団免疫獲得に必要な水準に達したとしても、それだけでは新型コロナの感染拡大を防げない可能性が高いと言わざるを得ない。

 中国でも有効率の高いファイザー製ワクチンの導入が検討されていたが、13日付CNNは「中国政府は5カ月前からファイザー製ワクチンの導入に向けた検討を行ってきたが、政治的な理由で最終決定を見合わせている」と報じた。

 ファイザー製ワクチンを共同開発したドイツの製薬会社ビオンテックは、中国の製薬会社と合資会社を今年5月に設立し、8月末にワクチンの試験生産に入る準備を進めてきた。

 中国保健当局も7月までにファイザー製ワクチン導入についての専門家の検討を終え、認可一歩手前まで手続きを進めていたが、現在に至るまで承認に至っていない。

 自国のワクチンだけでオミクロン型に対処できないのにもかかわらず、ファイザー製ワクチンの導入を見合わせているのには過去の経緯が絡んでいる。中国は発展途上国に数十億回分のワクチンを提供することで自国の技術力をアピールしてきた。今になって外国製ワクチンを導入したら自国の技術が劣っていることを認めることになってしまう。中国のワクチンメーカーも巨大な国内市場を外国の製薬会社に開放することに反発している。

 国の面子などにこだわるのは中国の常だが、実効性の低いゼロ・コロナ政策を続けていけば、国内が大混乱に陥ってしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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