【カムカム】「安子」を次々不幸が襲っても…カギを握る度々流れる稔との思い出の歌

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 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(月~土曜午前8時)の人気は高まるばかり。昭和の記憶を失いつつある現代人が、どうして80年も前の物語に心を奪われるのだろう。その魅力をあらためて考察する。

 ヒロインの安子(上白石萌音、23)を次々と不幸が襲うため、「カムカムエヴリバディ」を単なる悲劇と思い込んでいる人もいるようだが、それは違う。この朝ドラが「ハートフルコメディ」と謳われていることを忘れないほうがいい。

 安子の将来を占うに当たってカギを握るのは物語の中で幾度となく流れたルイ・アームストロングの歌「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」。

 安子にとって、亡き夫・雉真稔(松村北斗、26)との思い出の歌だ。タイトルを直訳すると、「明るい表通りで」。そう、「ひなた」である。

 歌詞を読むと、脚本を書いている藤本有紀さん(53)の意図があぶり出しのように浮かび上がる。

「悩みはひとまず置いといておき ドアを開けよう 明るい表通りを歩けば 何もかも良くなるさ」(オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート)

 安子はこの歌詞どおりの生き方を目指しているのだろう。だから第25話で義父・千吉(段田安則、64)から、娘のるいを連れて雉真家に帰るよう説得された時も、それを拒んだ上で、「ひなたの道を歩いて行きます」と宣言したのだ。

 ラジオの英語講座を聞いていた安子は「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」の歌詞の意味が分かっている。なにしろ稔が遺したメッセージのような歌なのである。

 もう1つのポイントは安子が戦前期の「いたいけな少女」ではなく、戦後は「強い女性」になっているところ。

 だから義母・美都里(YOU、57)から嫌がらせを受けようが、当初は雉真家に留まろうとした。大阪で芋飴を売り始めた後、タチの悪い男が食い逃げを図ると、「お代を、お代を」と、小さな体で懸命に食い下がった。

 るいの存在が安子を強くしたのは疑いようがない。いや、安子に片思いをしていた義弟・勇(村上虹郎、24)は以前から「安子は強えよ」と評していた。安子は今後の人生を自らの手で切り拓く。

 では、るいとの関係は……。大抵、親子関係は山あり谷あり。ずっと関係の良い親子のほうが珍しい。安子とるいがどうなるかを詳述することは控えるが、安子が下す決断はるいを思ってのことだ。るいがすぐに意図を理解できなくても――。

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