ヤクルトVSオリックスの日本シリーズは過去3回 大杉勝男の本塁打を巡って乱闘、ID野球に封じ込められたイチローを振り返る

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攻略されたイチロー

 2度目は95年。オリックスの球団名がオリックス・ブルーウェーブだった時代である。このとき、ヤクルトを率いていたのは名将・野村克也。対するオリックスは策士・仰木彬。シリーズ前からマスコミはこぞって“野村ID野球対仰木マジックの戦い”と大宣伝していた。両監督も開幕前からマスコミや監督会議を通して“舌戦”“心理戦”を展開し、対決ムードを盛り上げていたのだった。

 もう1つの注目が、オリックスが誇る稀代の天才打者・イチローをヤクルト投手陣がどう抑えるか、であった。ヤクルトにとってはイチローを抑えること=日本一への絶対条件だった。逆にいえば、オリックスにとってはイチローの打棒爆発が日本一へのガキとなる。イチロー攻略のため、野村監督は開幕前から打撃ルーティーンを指摘するなど、老獪な駆け引きを仕掛けてきた。特に大きかったのがマスコミをうまく使い、イチローの弱点は「内角高めの速球」と戦前から意識付けさせたことだろう。

 イチローは前年にシーズン210安打と新記録(当時)を樹立。この年は“がんばろう神戸”の合言葉のもと優勝したチームを牽引した。だが、野村監督の心理戦とヤクルト投手陣の攻めの前に調子が上がらず、第4戦を終えて16打数3安打と完全に封じ込められてしまった。このイチローの不調に引きづられるようにチームも初戦から2-5、2-3(延長11回)、4-7(延長10回)と3連敗を喫する。イチローは第5戦の初回にようやく1号ソロを放つなど、この試合3打数2安打をマークしたが、時すでに遅し。1-3で惜敗し、4勝1敗で日本一の座にはヤクルトが輝いたのであった。

 このシリーズでのオリックスの勝利は第4戦のみ。延長10回裏から登板した小林宏が延長11回裏に“小林の14球”と呼ばれる熱投で相手4番のオマリーと対峙し、一打サヨナラ負けのピンチを回避した試合である。この小林の力投に打線が応え直後の12回表に勝ち越し点を奪い2-1で勝利したものの、シリーズ全体を通じて打線が低調だったことが敗因の1つになってしまった。その象徴がイチローだったのである。

 のちに、この対戦でヤクルトは新興の野球データ分析会社が開発したソフトを活用し、相手バッテリーの配球を徹底分析すると同時にオリックス打線を丸裸にしていたことが判明している。4勝1敗ながら3試合連続の延長戦にもつれ込んだ“接戦シリーズ”を制した勝負の決め手であり、プロ野球界のデータ解析に新潮流が生まれるきっかけとなったシリーズでもあったのである。

名(迷)言も飛び出した2001年

 最後は今年を除き、関西のパの球団がシリーズに出た直近の年である。それは20年前の01年、セの代表・ヤクルトと対戦したのが梨田昌孝監督率いる大阪近鉄バファローズ時代たった。オリックスと合併する3年前の出来事である。ヤクルトの監督は若松勉で、28年ぶりのチーム生え抜き監督対決が実現し、話題になった(この両監督は入団から引退まで他チームに移籍することがなかった。そのためシリーズ史上初の完全チーム生え抜き監督の対決でもあった)。

 シリーズ最大の注目は“いてまえ打線”と呼ばれる強力近鉄打線を、野村ID野球の申し子と呼ばれたヤクルトの捕手・古田敦也の頭脳がどう抑えるか、の一点に集まった。シリーズ前にはヤクルト劣勢を予想する声もあるなか、結果は4勝1敗でヤクルトの圧勝に終わる。ローズ、中村紀洋の3・4番を徹底マークしながらその後ろを打つ磯部公一、吉岡雄二らを完全に封じ込み、いてまえ打線の分断に成功したのである。5試合でヤクルト打線が28得点をマークしたのに対し、近鉄打線が奪った得点はその半分の14点であった。

 まさに古田の頭脳が導いた日本一。直後の優勝監督インタビューで若松監督の「本当にファンの皆さま、日本一おめでとうございます!!」という名(迷?)言も飛び出した。ヤクルトの日本一は5度目となったが、ヤクルト一筋の生え抜きOB監督によるシリーズ制覇は初という快挙でもあった。対する近鉄はこの年が最後のシリーズ出場となり、結局、一度も日本一になれないまま、04年オフにその歴史に幕を下ろすこととなったのである。

 さて、今年の日本シリーズだが、ヤクルトの高津臣吾監督とオリックスの中嶋聡監督は95年のシリーズで対戦している。中嶋監督にとってはリベンジ戦となるわけだが、高津監督も連勝記録を閉ざしたくないところ。“4連勝”か、それとも“4度目の正直”か。下馬評では投手力に勝るオリックス有利という声が多いが、ヤクルトにとっては相性の良い相手でもある。ちなみに今年の交流戦は2勝1敗でオリックスが勝ち越した。昭和、平成、そして令和でも名勝負が生まれることを期待したい。

上杉純也

デイリー新潮編集部

2021年11月20日掲載

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