「日本沈没」で思い出す27年前のベストセラー 未来推進会議の出席者はなぜ12人なのか

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 TBS「日曜劇場 日本沈没―希望のひと―」(午後9時)の勢いが止まらない。10月10日放送の第1話から同24日放送の第3話まで、コア視聴率(13~49歳)が今季の民放全ドラマの中でトップ。なぜ、面白いのか? その理由の1つは「人間を幸福にしない日本というシステム」が、たっぷりと克明に描かれているからだろう。

裏テーマは「日本」というシステムのダメな部分

『人間を幸福にしない日本というシステム』は1994年の大ベストセラー。著者はオランダ生まれのジャーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレン氏だ。

 ウォルフレン氏は、日本はバカバカしいシステムであふれていることに気づく。政治家の無責任、官僚が握る膨大な権限などである。

「日本沈没」の裏テーマも「日本」というシステムのダメな部分を浮き立たせることだろう。ふんだんにあるダメな部分の描写が極めてリアルだから、現実にはあり得ない関東沈没の危機すら説得力が生まれている。

 ドラマの登場人物である世良徹・東大教授(國村隼、65)もダメな人の1人。地球物理学の権威でありながら、田所雄介博士(香川照之、55)の関東沈没説を認めたくないので、第2話で海底地形のデータを偽装した。国交省から日本未来推進会議(未来のための政策を官僚が議論する諮問会議)に選ばれた安藤靖(高橋努、43)にやらせた。

 半面、データ偽装そのものには意外性がなかった。偽装はもはや日本のお家芸とすら言えるからだ。

 2015年には東洋ゴムが地震時の建物の揺れを少なくする免震ゴムの性能データを偽装していたことが発覚。翌2016年には三菱自動車が軽自動車4車種の燃費試験に使うデータを改ざんしていたことを公表した。

 ほかにも書き切れないほどの偽装が過去にあった。これだけ偽装が多発していると、世良教授も罪悪感はなかったのではないか。実際、世良教授はインチキがバレた後も「日本の信用のためです」とシレッと言った。

描かれる「日本的」なエピソード

 関東沈没説を取材する「サンデー毎朝」記者の椎名実梨(杏、35)の父親は機械メーカーで働いていた。実梨は第2話で主人公の環境官僚・天海啓示(小栗旬、38)に対し、こう打ち明けた。

「ある時、(父が)製品の不備に気がついて、生産を中止するよう会社に直訴したんです。でも、その意見は揉み消されました。それから嫌がらせが続いて、会社は辞めることになりました」(実梨)

 この話を聞き、「あり得ない話」と一笑に付すサラリーマンはいないはず。大抵は似た話を耳にしたことがあるだろう。当事者になった人もいるのではないか。これも「日本」的の1つだ。

 腹黒そうな副総理兼財務大臣・里城弦(石橋蓮司、80)は第3話で、財閥トップの常盤統一郎(小野武彦、79)に関東沈没を漏らしてしまった。インサイダー情報の漏洩である。

 常盤は大損害を回避できたのでホクホクだろうが、情報を得られなかった人たちとの間に大きな不公平が生じた。ちなみに常盤は、未来推進会議メンバーで経産官僚の常盤紘一(松山ケンイチ、36)の父親だ。

 この情報格差の話もドラマでありながら説得力があった。なにしろ上級国民という言葉まで生まれた国である。「日本」的だ。もっとストレートにインサイダーに手を染めた官僚もいる。2016年、インサイダー取引で経産省審議官の有罪が確定した。

 また政治家も官僚も高潔であれば良いというわけではない。総理の東山栄一(仲村トオル、56)はクリーンなイメージを抱かせるものの、やっぱり「日本」的だった。あ然とするほど決断力がない。

 やはり第3話、天海は東山に「(関東沈没の危機を)総理自ら国民に知らせるべきです」と強く進言した。田所博士の予測では、半年以内に70%の可能性で関東は沈没するのだから、タイミングとしては遅いくらいだろう。

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