シーズン初安打の満塁弾…引退3選手の「最終打席」で起きた意外すぎる結末

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最後の最後まで“グラウンドの詐欺師”

 田代同様、現役最後の打席を本塁打で飾ろうとしたのが、広島の捕手・達川光男だ。プロ15年目の92年、達川は100試合に出場。西山秀二らの台頭はあったが、まだ正捕手として十分やれるはずだった。

 ところが、10月4日の巨人戦の試合前、達川は「体力の限界」を理由に突然引退を申し出た。当然のように松田耕平オーナーと山本浩二監督は慰留したが、本人の意思は固く、巨人戦後に引退セレモニーが行われることになった。

 そして、広島が6対2とリードした7回2死、達川は西山の代打で登場する。この時点で引退は正式に発表されていなかったが、井上忠行球審は巨人の捕手・村田真一に「知ってるな。今日は達川の引退試合だぞ」と声をかけた。「直球勝負で最後に花を持たせてやれ」という意味だ。村田は「ハイ」と頷き、「長い間ご苦労様でした」と労った。

 感極まった達川は、涙が溢れるのを押さえることができず、村田に「(涙で)ボールが見えん。どうやって、打ったらええんやろ」と相談した。

 だが、やはり達川は最後の最後まで“グラウンドの詐欺師”だった。実は、密かに本塁打を狙っていた。バットを乾燥させると打球が良く飛ぶことから、達川は試合前に愛用のバットを火にかざし、最後の出番に備えていた。

 ところが、入念に乾かし過ぎたことがバットの耐久性を弱める結果となり、ボールに当たった瞬間、ポキリと折れ、遊ゴロに……。半ば呆然とした達川は、左手に残ったバットの下半分を持ちながら一塁に走り、アウトになった。

 本塁打でカッコ良く決めるはずの現役最終打席が珍プレーで終わったのは、“グラウンドのエンターテイナー”でもあった達川らしい結末と言えるだろう。

「オレらしいちゃ、オレらしい」

 最後に紹介するのは、現役シーズンの最終打席で、前代未聞のハプニングを味わった巨人・阿部慎之助だ。

 2019年、球団の生え抜きでは、ONに次いで史上3人目の通算400本塁打を達成するなど、頼れるベテランとして存在感を示していた阿部は、当初翌年以降も現役続行する意向だった。

 だが、チームが5年ぶりのリーグVを決めた翌日の9月22日、原辰徳監督との話し合いの結果、「思っていることがお互い一致した。そこで決まった」と現役を引退し、指導者への道を歩むことを決意した。

 引退試合は同27日、本拠地最終戦のDeNA戦。「4番・捕手」で出場した阿部は、4回に通算406本目の本塁打を放ち、ファンの大声援に応えた。そして、現役シーズン最終戦となった翌日のヤクルト戦でも、1対1の9回1死二塁のチャンスに代打で登場した。

 ところが、マクガフが2球連続ボールとカウントを悪くすると、中大の先輩でもあるヤクルト・小川淳司監督は「勝つことが大事」と申告敬遠を告知した。まさかの結末に、阿部は「勝負だから仕方ないけど、オレらしいちゃ、オレらしい。(最後の打席が申告敬遠)史上初じゃない? 球史に残る記録じゃないかな」と複雑な表情だった。

 今年も引退していく選手の“最終打席”でどんなドラマが見られるか、注目したい。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年10月20日掲載

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