東南アジアで高まる「中国製ワクチン」不信 在留日本人には欧米製を打つ特別措置も

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 9月17日より、インドネシアの首都ジャカルタ北部、タンジュンプリオク地区にある港湾検疫施設で、ジャカルタ周辺に在留する日本人とその家族、およそ330人を対象としたコロナワクチン接種が行われた。

 この時、接種されたのは英アストラゼネカ社製のワクチンだった。通常、インドネシア国民に用いられる中国ワクチンは選ばれなかったのだ。在留日本人とその家族だけを例外的にした措置。背景にはインドネシア保健当局と在インドネシア日本大使館、日本外務省による粘り強い交渉と調整があった。なお、接種に関わる費用はインドネシア政府負担のため無料となった。

 このような、在留日本人とその家族(家族であれば国籍は問わず)を対象にした例外的なワクチン接種は、インドネシア以外にもタイ、フィリピン、カンボジア、ベトナムでもこの8月頃から順次実施されている。カンボジアでは9月から3回目の接種、いわゆるブースターとしての接種の準備を進めているという。

 それぞれの国で在留日本人に接種されたワクチンは英アストラゼネカ社製、米ファイザー社製など様々だが、東南アジア各国で多くの人々を対象に接種されている中国製ワクチンではなかった。

 もちろん、各国で自国民を対象に実施されている中国製ワクチンの接種は、在留日本人も希望すれば接種を受けることは可能である。ところが、中国製は受けたくない、という在留日本人の根強いニーズに応えるために、例外的な場が関係各機関による努力の結果として設けられることになったのだ。これには、欧米製ワクチンを積極的に各国政府に提供する日本政府の尽力も一役買ったといわれている。

 日本政府が中国製ワクチンを承認していないこともあり、こうした措置が取られる以前から、日本企業は特別便で駐在員とその家族を帰国させ、日本でワクチン接種を受けさせてはいた。とはいえ、個人事業主や欧米企業で働く従業員、家庭の事情や経済的な理由から、こうした方法で接種が叶わない在留日本人も少なくなかった。「なんとか中国製ワクチン以外のワクチンを受けられないか」との要望が大使館には寄せられていたのだ。

安全性、有効性への疑問、警戒心

 なぜ、これほどまでに中国製ワクチンを避けるのか。東南アジアで接種されている中国製ワクチンは「中国医薬集団社製シノファーム」と「中国科興控股生物技術社製シノバック・バイオテック」の2種類がある。筆者の住むインドネシアでは、今年の初めからシノバック社製が導入され、国民に接種が進められていた。

 1月13日には、インドネシアの第1号としてジョコ・ウィドド大統領がメディアの前でシノバック社製ワクチンの接種を受けていた。次いで閣僚、宗教指導者そして医療関係者の順で、優先的接種がはじまったのだ。

 その後は国民にも積極的な接種を呼びかけていたが、優先接種の対象だった医師や看護師に異変が生じたのだ。まず6月17日、2回の接種を受けたにもかかわらず、コロナに感染し、死亡する医師や看護師の事例が報告された。感染が判明したのは350人、亡くなったのは10人だった。

 この驚くべき数字が明らかになると、インドネシアでは「中国製ワクチンはコロナウイルスに効かないのではないか」「ワクチンの成分は水ではないか」といった疑問が噴出。有効性が問われる事態となったのだった。

 同様の「中国製ワクチンを2回接種した医療関係者の感染、感染死」という事例は、その後タイやマレーシアでも報告され、インドネシアだけの特異な例ではないことが確認された。すると各国では「中国製ワクチン」から欧米製ワクチンへの転換が急務に。特に、常に感染の危険にさらされている医療関係者は、3回目の接種には欧米製ワクチンが推奨されるようになった。

 絶対的なワクチン不足から「何もしないよりはいいだろう」とひきつづき中国製ワクチン接種を引き続き受ける者もいるが、はっきりと中国製を嫌がる動きもでてきた。富裕層のなかには金銭にものをいわせ、欧米製ワクチンを入手して接種する者もあるようだ。

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