東南アジアで高まる「中国製ワクチン」不信 在留日本人には欧米製を打つ特別措置も

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中国のワクチン外交に飛びついた結果

 東南アジアで中国製ワクチンが広がったのは、欧米製のワクチン入手に苦心する各国に、中国からの積極的なワクチン提供、しかも無償での大量提供という申し出があったためだ。もっとも、各国は独自の検査機関でその安全性、有効性を検査して、承認してはいる。さらに「シノバック社製」ワクチンに関していえば、有効性は米製の90%前後に比べて約50%と低かった(世界保健機関などの調査)。だから中国からの提供に飛びついた各国政府にも責任はある。

 一方、アフリカや南米のみならず、東南アジアにもワクチンを提供することで、影響力を行使したいという中国の強い思惑があったことはたしかだ。今年1月には、王毅外相自らがミャンマー、インドネシア、フィリピンをわざわざ訪問してワクチン提供を申し出たことからも、それは明らかだろう。

 この時、王毅外相が各国で強調したのが「人道的支援による友好関係のさらなる構築」とのことだった。もっともらしい理由づけだが、受け取る側にとっても「受け入れやすい名目」であったことは確かだろう。

 しかし真意は地球規模で進めている独自の経済圏「一帯一路」構想に基づく、親中国ネットワークの構築にほかならない。ワクチン提供を受ける各国もそれは十分承知のうえで、コロナ感染の拡大防止という喫緊の課題への対応を優先せざるをえなかった。

 この「一帯一路」構想では、中国は表向き「友好国の経済発展に貢献」という題目を掲げて投資、インフラ整備、技術支援などを進めるが、その実は「債務の罠」に追い込む手法であることがアフリカ諸国などを苦しめていることはもはや周知の事実となっている。

中国への配慮をみせながらも

 中国への不信感を抱きながらも、表向きは中国への配慮も忘れないのが東南アジア各国である。各国は欧米製ワクチンの入手に努力する一方、中国からのワクチンの追加提供も相変わらず受け入れているのだ。東南アジア各国はほぼ例外なく中国と経済的に強いつながりがあり、これを損なうことだけは避けたいとの思惑があるからだ。中国への忖度である。

 見方を変えれば、「一帯一路」構想に潜む狙いを分かった上で、「もらえるものは何でももらっておく」という中国並みのしたたかさを各国とも持っているといえるだろうか。

 インドネシアでは、9月以降、感染拡大が小康状態になり、防止のための規制も次々と緩和されてきた。世界的に知られる観光地のバリ島でも、これまで全面禁止だった外国人観光客の受け入れに向けた準備が始まっている。

 しかしフィリピンやタイ、マレーシアそして感染予防では東南アジアの「優等生」だったはずのシンガポールでも感染は依然として高い警戒レベルにある。今後、感染拡大の次なる波が再来することは予想できる。その「備え」には、依然として中国製ワクチンに頼らざるを得ないのだ。

大塚智彦/フリーランスライター

デイリー新潮取材班編集

2021年10月20日掲載

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