イチローが初のサヨナラ打、巨人はわずか2分で大逆転…「奇跡の優勝決定戦」の一閃

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残り「1厘」から

 一方、完敗目前の9回裏、連続本塁打で逆転サヨナラという“ミラクルV”を決めたのが、2000年の巨人だ。わずか2分で試合をひっくり返した立役者は、江藤智と二岡智宏だった。

 9月24日の中日戦。巨人自慢の「ミレニアム打線」は、のらりくらりとかわす左腕・前田幸長の術中にはまり、8回まで散発の5安打。0対4とリードされて最終回を迎えた。

 長嶋茂雄監督も「9分9厘落としても仕方がない展開」と敗戦を覚悟したが、残り「1厘」から奇跡のドラマが幕を開ける。先頭の元木大介が右前、高橋由伸も右前と連打し、前田をマウンドから引きずり降ろす。

 さらに、「今日はつなぎ役に徹した」という4番・松井秀喜が、中日の守護神ギャラードから右前に打ち返して、無死満塁。1死後、この日、3打数無安打2三振と当たっていなかった江藤が2ボールからギャラードの147キロ直球をフルスイング。高い軌道を描いた打球が、起死回生の同点満塁弾となって、左中間席に突き刺さった。「ミレニアム打線」のシーズン通算200本目でもあった。

 前年オフ、右の和製大砲として広島からFA移籍し、長嶋監督の33番を譲られた男は「やったと言うしかないよ。苦しいシーズンだったけど、努力した甲斐があった」とふだんのポーカーフェイスから一転喜びをあらわにした。

「こんな日に打てて最高!」

 ドラマはなおも続く。二岡が1ストライクからの2球目を右方向に打ち返すと、打球はサヨナラのV決定弾となって右中間席に弾んだ。長嶋監督は「言葉に表しがたい。監督冥利に尽きる」と感激。二岡は「自分が決めた実感がないんです。球種もベースを1周したときのことも覚えていない」と試合終了後も夢見心地だった。

 プロ3年目の2番打者のバットがチームに18年ぶりセ・リーグ優勝をもたらしたのが、03年の阪神である。

 9月15日の広島戦、マジックを「2」としながら5連敗中の阪神は、この日も元気なく7回までわずか2安打。だが、1対2の8回に、片岡篤史が右中間に同点ソロを放ち、重苦しいムードを払拭する。

 そして、9回も1死から藤本敦士がセンター前ヒット、片岡がライト前ヒットで一、三塁とチャンスを拡大。一方、広島は満塁策で対抗し、1番・沖原佳典が敬遠されるなか、星野仙一監督は次打者・赤星憲広を呼び止め、「外野は浅い。振り抜けば、頭を越すから思い切りいけ」と囁いた。

 1死満塁。割れんばかりの大声援を背に受けて打席に立った赤星は「外野まで飛べば(犠飛で)1点入る」と迷わず初球を振り抜く。打球は執念が乗り移ったようにライトの頭上を越え、三塁走者・藤本がサヨナラのホームイン。先発の伊良部秀輝をはじめ全選手が、二塁ベース上の赤星目がけてダッシュした。

 ベンチ前で歓喜の輪を温かく見守っていた星野監督も、赤星が引き揚げてくると、「ようやった!」と目を潤ませながら、きつく抱きしめた。それから約2時間後、2位・ヤクルトが敗れ、18年ぶりVが決定。170センチ、66キロのヒーローは「こんな日に打てて最高!」と声を張り上げた。

 首位争いを続ける阪神は、今年勝てば05年以来のリーグ制覇となる。甲子園を舞台に、虎党が歓喜する“新たな優勝ドラマ”を見ることができるだろうか。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年9月17日掲載

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