目標1億円で集まったのは1400万円 朝日新聞と高野連が“寄付失敗”で気付くべきこと

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目標1億円の13%しか集まらなかった。寄付者わずか1633人。

 日本高野連が朝日新聞のサイトで実施していたクラウドファンディングは、最終日(8月31日)を迎えてなお目標額1億円に遠く及ばず、1300万円台にとどまった(確定金額は13,927,884円)。達成率13パーセント台。誰もが知るイベントとしては驚くほど低調な数字。これが何を意味するのか? 多角的に検証する意義は大いにあるだろう。

 寄付を募った理由を日本高野連は「一般入場者のチケット販売をやめたこと」としている。入場料収入が減る一方で、「PCR検査やベンチの消毒など感染防止対策にかかる費用は膨らんでおり、運営は極めて厳しい状況に陥っております。」と。

 だが多くのファンは、「えっ、朝日新聞が出してくれないの?」と素朴に思ったのではないか。主催は朝日新聞社と日本高野連。大会会長は朝日新聞社の社長だ。要するに高校野球は「教育の一環」と言いながら「新聞社の事業」なのだから、「足りなければ主催者が出して当たり前」と多くの人が感じても不思議ではない。お金を出す気がないなら主催は降りるべきだ、と私は思った。その責任も果たさずに高校野球を支配し続ける権利がなぜ朝日新聞社にあるのだろう?

 一方、見る側も「夏の甲子園がなくなるわけがない」と高をくくっているのかもしれない。危機感がないせいか、「大変だ、甲子園を救え!」と考え私費を投じた人は全国でたった1633人しかいなかった。

高校野球を「高校生たちがもっと学べるよう」改革しませんか?

 2年前は猛暑の危険性が問題視され、今年は長雨にたたられた。時期や実施方法など、根本的に高校野球改革を進めるべき時が来ている。会場を甲子園以外に求めることも含めて、真剣に議論した方がいい。複数の球場で開催すれば、1回戦、2回戦はもっと短い期間で実施できる。予選リーグ方式も採用できる。「永久関西大会」でなく、全国に会場を移すことで各地の野球振興・活性化にもつながるだろう。関西有利の偏りも是正される。

 高校野球は春と夏の甲子園を頂点に、甲子園が唯一最大の目標、すべては甲子園を価値基準に運営され続けてきた。約13万5000人(今年5月末の時点で13万4282人。7年連続の減少)の高校球児のうち、夏の甲子園の舞台に立てるのは900人に満たない(ベンチ入り人数で882人)。わずか0.66%の「夢」を追う自己陶酔を強いられ、他の多くを犠牲にする高校生活を「当然だ」とされている。

 私は、「夏の甲子園」と「春のセンバツ」こそが高校野球を不健全にしている元凶、諸悪の根源だと感じているが、これまで世間の大勢はそれを認めてはくれなかった。高校球児ひとりひとりの自由闊達な青春より、高校野球を見て楽しみたい大人たちの欲求が常に優先されてきた。

「諸悪の根源」と言った理由は書ききれないほどあるが、ひとつだけ書くと、「甲子園を絶対視することで、高野連も、高校側も、地方の役員も監督も選手も、思考停止になっている」、それが最大の弊害だ。モノを言わない、考えない。現状維持が高校野球の不文律になっている。そんな環境で、創造力豊かな若者が育つだろうか。

「練習は週2、3日がちょうどいい」「音楽活動や他の趣味にも時間を使いたい」「夏休みには自由に旅をしてみたい」、そんな望みは、甲子園を目指すと決めたらほとんど許されない。「教育の一環」と言いながら、野球一途を善とし、「たとえ出られなくても甲子園を目指すことに意義がある」という「思い込み」を盾に選手の心身を縛り続けている。

 考えるべきことは山ほどある。

「100人もいる部員全員を試合に出す方法はないか?」

 例えばそんな問いかけを一度でもしてきただろうか? 何十年もそんなことは考えず、「補欠は補欠、仕方がない」といった態度を教育者が取り続け、それを世間も咎めない。

「夏の大会は負けたら終わり。ってことは、全国の半分の球児がたった1試合で高校球界から追われるんでしょ? もったいない」などと、素朴につぶやく指導者も少ない。「負けたら終わり、それがいいんだ」とされている。大半の球児がたった1試合で競技としての野球を離れる。平気で競技人口を失う不合理や理不尽を真剣に問うこともして来なかった。

 一部の高校では、「地域の小学生たちに野球の面白さを伝える方法はないか」といった活動を始めている。素晴らしい芽生えだと思う。本当はそういう動きを加速させる支援を日本高野連や朝日新聞はすべきだったのではないか。

 例えば、「希望する高校球児をアメリカに交換留学生として送り、アメリカの野球生活を経験する機会を提供する」「アメリカの野球指導者を招聘し、日本の高校で指導してもらう」「キャッチボールや草野球のできる公園づくりを高野連が資金を作って進め、野球に親しむ少年少女の育成につなげる」など、アイデアはいくらでも出てくるが、高校球界からはこのような提案が出てきたことはほとんどない。

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