バービーさんの「人生で一番高い買い物」は幼なじみの実家? DIYで街おこしの拠点に

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「まるちゃんちの実家、売りに出したりしてない?」

 お笑いコンビ「フォーリンラブ」として大活躍しながら、エッセイの執筆も手がけるバービーさん。地元・北海道で“憧れの家”に再会したとき、彼女がとった驚きの行動とは?

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 2017年の元日、私は、繋がるかもわからない幼なじみのまるちゃんに電話を掛けていた。「東京との橋渡しがしたい」と地元北海道は栗山町役場に乗り込んだ日の夜。たぎったモチベーションのせいか、普段は電話よりメール派の私だが、10年ぶりとは思えない気軽さと勢いで、発信ボタンを押した。

「まるちゃんちの実家、売りに出したりしてない?」

 同級生の中で一番近所の彼の家は、私にとって憧れの場所だった。陶芸家のおじさんと、ハーブという概念がない地域と時代に、ガラスの急須を使って、庭で摘み取ったミントでミントティーを淹れてくれるおばさん。

 それまで番茶に漬け物しか知らなかった私にとって、焼き菓子をお茶請けに飲む、ミントティーは格別に美味しかった。敷地内の陶芸工房で、ろくろを回させてもらったこともある。

 玉ねぎ畑に囲まれた決して綺麗とは言えないボロ屋なのだが、私には、まるでヨーロッパの片田舎、ピーターラビットの世界に入りこんだかのような異世界に感じられた。

 そんな、ワクワクの思い出がいっぱい詰まったあの場所が、街おこしの拠点にはぴったりだと思った。

 何にも面していなくて、敷地内なら裸で肌を焼いていようが人の目なんて全く気にならないぐらいの解放感。情報やモノや音が、どうやったって流れこんでくる都会に暮らす人に、「何もない豊かさ」を感じてもらうには、絶好の環境だ。

「お願い、買わせて!」

 失礼を承知で掛けた電話だったが、返ってきたのは、奇跡的な答えだった。

 ちょうど売りに出していて、なかなか買い手がつかず困っていたところだ。そこにひとりで暮らしていたおじさんは、余命宣告を受けるほどの病状で札幌で入院してるという。

 確実に人生で一番高い買い物だったが、私にとっては、スーパーで3割引のお惣菜をどれにしようか考えるよりも、簡単な決断だった。

「お願い、買わせて!」

 実際は、買うというよりは、譲り受けるというぐらいの金額だ。

 譲り受ける者として、生活した人の証を聞いておかなくてはいけないと思い、おじさんが入院している病院に出向いた。

 忘れないようにメモをしようとノートを開いたすぐそばから、余命いくばくかとは思えないパワーで、おじさんの話は止まらない。

 毎年、庭に咲く白い桜は珍しい。30年前に自分で植えた。梨の木もある。あれは切らないでくれ。

 手続きがまとまり、ほどなくして、おじさんは亡くなった。

 あれから4年。母や地元に残る私の兄や姉、家族総出でDIYをし、この程、新しい家として生活できるほどまでに完成した。

 梨の木は今年初めての剪定をして、今まで以上に花が咲いているらしい。褒めてくれと言わんばかりに、父から報告の電話があった。

 そして、おじさんが大切にしていた白い花の咲く桜は、主人が変わっても変わらず春の訪れを教えてくれている。

バービー
1984年生まれ。2007年お笑いコンビ「フォーリンラブ」結成。初エッセイ集に『本音の置き場所』。

2021年8月26日掲載

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