巨人「ワッショイベースボール」で好スタートも松原と吉川に言いたいことがある【柴田勲のセブンアイズ】

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長嶋さんの「それ行け!野球」

 巨人が後半戦開幕ダッシュを決めた。13日からの中日3連戦(東京ドーム)を3連勝した。東京五輪開催に伴う約1カ月の中断を経ての再開となり、「さあ、この中断がどう出るか」と少し不安だったが、戦力層の厚さとともに底力を見せつける結果となった。

 原辰徳監督は後半戦から、「ワッショイベースボール」をチームの方針に掲げた。重い神輿(みこし)もチーム一丸となって担げば軽く感じるし行きたいところにも行ける。

 いいと思う。この3連戦を見ていても、ベンチが一つになっている。

 長嶋(茂雄)さんの、「それ行け!野球」を思い出した。第1次政権時代の長嶋さんはとにかく活動的で積極的に前面に出ていた。試合中はベンチ前で、「それ行け!」、「それ行け!」と大声でナインを鼓舞していた。とにかく前へ突き進め。「ワッショイ」とはまた違うけど、長嶋さんらしいチーム操縦法だった。

 この3連戦3連勝を引き寄せた大きな要因の一つは初戦、若林晃弘の代打同点本塁打だった。1点を追った8回、代わった又吉の初球、144キロの真っすぐを捉えた。実にいいスイングだった。試合の流れをつかんで4番の岡本和真が決めた。

 この試合、先発の山口俊がよく投げたし、2戦目のC.C.メルセデスも5回を1失点とまとめた。球数は108、コントロールに苦しんだ面はあったものの五輪明けを考えるとまずは合格点ではないか。

 残念だったのは3戦目の戸郷翔征だ。4回まではパーフェクトだったが、5回1死から福留孝介と高橋周平の連続二塁打で1点を失い、なお連続四球で満塁とし代打・アリエル・マルティネスには押し出しの死球だ。原監督はなんの迷いもなく今村信貴にスイッチした。死球でなかったらもうちょっと様子を見たかもしれないが、勝利投手目前での交代は原監督ならでは采配だったと思う。

 中継ぎ陣もよく踏ん張っている。今村、大江竜聖、鍵谷陽平、高梨雄平らに最後はルビー・デラロサ、そして守護神のチアゴ・ビエイラが控える格好だ。特にビエイラはコントロールがよくなった。160キロを超える真っすぐ、しかも変化球でストライクが取れる。打者を早めに追い込んで仕留めている。

5連勝は立派の一語

 投手陣でいえばエース・菅野智之の復帰が待たれる。今季は足や右ヒジのコンディション不良で4度の登録抹消を繰り返している。本人、首脳陣もどうしても慎重にならざるをえない。

 でもエースが万全の状態で復帰すればこれほど心強いものはない。それに中川皓太も間もなく帰ってくる。戦力に再び厚みが増す。

 坂本勇人は好調をキープしているし、岡本和も主砲の働きをしている。なによりも丸佳浩の完全復活が大きい。以前は真っすぐに差し込まれ、フォークに泳ぐシーンが目立った。いまは前でさばけている。坂本、丸、岡本の主軸3人が得点源となっている。

 若林、石川慎吾、重信慎之介、北村拓己らもいい働きをしている。中島宏之、亀井善行のベテランも控えている。これに右手中指の骨折で戦線を離脱している梶谷隆幸の復帰も近いという。

 着々と戦力の厚みを増していく巨人だが、松原聖弥と吉川尚輝には注文がある。二人とも守備範囲は広いし、走塁だっていいものを持っている。打撃の方もまずまずだ。だがもっと状況に応じた打撃をしてほしい。

 松原、2戦目の5回1死2、3塁の場面でボール球を振ってあえなく空振り三振した。ベンチが何を求めているかといえば外野フライ、または打球を転がすことだ。

 ただ漫然と打席に入ってはダメだ。どの球だったら外野フライを打てるか。どの球なら最低転がせるか。状況に応じた打撃を考える必要がある。それも常に考える。

 絶好機で空振り三振……監督にはこんなプレーが強く印象付けられる。レギュラーをしっかりとつかみ、外されない選手になるためには状況を的確に判断する。松原同様、吉川尚もまだまだ甘いところがある。

 なにも二人には3割、30本は期待していない。守走は文句なしだ。状況に応じた打撃をキッチリやることで、打率がたとえ2割6、7分であっても3割の価値がある。二人がもっと成長することがさらなる戦力の上積みになるはずだ。

 さて遅ればせながら侍ジャパン、37年ぶりの金メダル獲得、おめでとう。今回は第1戦・ドミニカ戦でサヨナラ勝ちしたように勝運の風が吹いていたが、5連勝は立派の一語だ。

 個人戦での金メダルも素晴らしいけど、団体戦での金メダルは感動が違う。

 1964年の東京五輪でいまでもよく覚えているのはバレーボール女子の金であり、体操男子団体総合の金だ。チーム一丸となっての栄光は価値がある。

 日本選手団の活躍には拍手を送りたい。

 17、18日は松山で3位のヤクルト2連戦、20日からは東京ドームにDeNAを迎えての3連戦だ。阪神とのゲーム差は「1」(16日現在)、原巨人の「ワッショイベースボール」の進撃に期待したい。

柴田勲(しばた・いさお)
1944年2月8日生まれ。神奈川県・横浜市出身。法政二高時代はエースで5番。60年夏、61年センバツで甲子園連覇を達成し、62年に巨人に投手で入団。外野手転向後は甘いマスクと赤い手袋をトレードマークに俊足堅守の日本人初スイッチヒッターとして巨人のV9を支えた。主に1番を任され、盗塁王6回、通算579盗塁はNPB歴代3位でセ・リーグ記録。80年の巨人在籍中に2000本安打を達成した。入団当初の背番号は「12」だったが、70年から「7」に変更、王貞治の「1」、長嶋茂雄の「3」とともに野球ファン憧れの番号となった。現在、日本プロ野球名球会副理事長を務める。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月17日掲載

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