「報ステ」に大抜擢の大越健介氏 フリーで成功した2人の「NHK」OBがすごかった点

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 10月からテレビ朝日「報道ステーション」(月~金曜午後9:54)の新MCにNHKを6月末で定年退職した大越健介氏(59)が就く。「視聴率が良いのになぜ外部から人材を招くのか」という疑問の声があるものの、背景には同局アナウンス部のスター不足と「報ステ」のブランド力の強化を願う上層部の思惑があるという。

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「報ステ」は常時13%前後の高い世帯視聴率を稼ぐ(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。個人視聴率はその6割前後となる。平日午後10時台の番組の中で大抵はトップだ。

 4月以降、月曜から木曜までの放送開始時刻を午後10時に繰り上げたテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」は同4%前後。「報ステ」の圧勝が続いている。

 それでもテレ朝は10月改編を機にMCを入れ替え、月曜から木曜は大越氏が務める。2010年から5年間、NHK「ニュースウオッチ9」のMCを務めていた御仁なのは知られている通りだ。ほかに、現在は月曜から水曜のMCの小木逸平アナウンサー(47)と入社2年目の渡辺瑠海アナ(24)が登場する。

 残る金曜日のMCとなるのは富川悠太アナ(44)と同局OGでフリーの徳永有美アナ(45)。富川アナは現在、木曜と金曜のMCで、徳永アナは月曜から水曜のMCを担当している。

 大越氏が招かれることにより、現在のMC陣はそろって格下げとなってしまうわけだ。視聴率は好調なのに不思議な話だが、テレ朝上層部には小木、富川、徳永の各アナがスターに育たないことへの焦りがあった。

「『報ステ』はテレ朝の基幹番組。平日のプライム帯(午後7時~11時)が強いのは『報ステ』が常に高い視聴率を稼いでくれるお陰にほかなりません。一方で局のシンボル的な番組でもあり、ブランディングの役割も担っています。だからMCにはスター性が求められる」(テレ朝関係者)

「報ステ」のMCはテレ朝の顔でもあるからスターでなくてはならないというわけである。確かに前身番組「ニュースステーション(「Nステ」)」(1985~2004年)のMC・久米宏氏(77)は紛れもなくスターだった。2004年から2016年まで「報ステ」の初代キャスターを務めた同局OB・古舘伊知郎アナ(66)もそうだ。

 一方、現在の小木、富川、徳永の各アナがスターかというと、残念ながらそうとは言い難い。このため、番組の持つインパクトやブランド力が低下した感は否めない。大越氏招聘の背景にはそんな事情がある。

 大越氏はビッグネームであり、MCに就けば「報ステ」のインパクトやブランド力は強まるだろう。招聘を最終的に決断したのは同局の絶対的権力者・早河洋代表取締役会長兼CEO(77)である。

「早河さんは『Nステ』の初代プロデューサー。『報ステ』が局の浮沈のカギを握る番組であることを一番よく知っている」(同・テレ朝関係者)

 また早河氏は勝負師であり、他局に勝つためなら局内外の批判を恐れない。「羽鳥慎一モーニングショー」のMCで今はフリーの羽鳥慎一アナ(50)を日本テレビから招聘することを決めたのも早河氏だ。

 2011年のことだった。この時も批判があったが、断行した。当時の日テレ会長の故・氏家齋一郞氏に会い、頭まで下げた。結果、「モーニングショー」は高い視聴率を誇っている。

「テレ朝全体がアナはスター不足」と民放内では言われる。実際、日テレには「真相報道 バンキシャ!」の桝太一アナ(39)がいる。頭脳明晰でキャラクターも親しみやすく、アナウンス技術も一級品だから、やがて大エースになるだろう。

 TBSには既に大エースの安住紳一郎アナ(48)がいる。情報番組からバラエティまで何でもこなせてしまう。

 フジテレビの伊藤利尋アナ(49)も大エースと呼べる存在にほかならない。やはり硬軟どちらの番組も出来る。

 また、テレ朝は「報ステ」の視聴者層も気にしたようだ。日本経済新聞が全面協力している「WBS」はスポンサーが喜ぶビジネスパーソンやエグゼクティブの視聴者によく観られている。

 だからスポンサーには三井不動産やオービック、デルジャパン、アサヒビールなどの優良企業がズラリと並ぶ。視聴率では「報ステ」におよばないものの、スポンサー集めに全く困らない。

 片や「報ステ」の視聴者はM3とF3(男女50歳以上)が多い。いずれも40代の小木、富川、徳永の各アナが担当しながら、視聴者はそれより上の層が目立つ。

 このため、高視聴率ながら、やがてCMの売れ行きが頭打ちになる恐れがある。CMを楽に高く売るためには若い人やエグゼクティブにも観てもらったほうがいい。

 アラ還の大越氏が登板すると、今より視聴者の年齢層が高くなってしまいそうだが、そうとは限らない。解説力や含蓄ある寸評に期待するビジネスパーソンやエグゼクティブらに観てもらうことが期待できるからだ。

 NHKの記者時代の大越氏は政治畑を歩み、自民党経世会などを担当した。米国ワシントン支局長の経験もある。政治や米国事情の専門的な解説を聞くことができるはずだ。

 では、大越氏を送り出すNHK側の反応はどうかというと、2年先輩でやはり政治記者だった正籬聡副会長・放送総局長(60)が、7月21日の総局長会見で「経験を生かして活躍することを期待しています」とエールを送った。好意的だ。

 半面、局内に「なぜ大越さんがスカウトされたのか分からない」という声があるのも事実。意外なことに大越氏もまたNHK内ではスター扱いされてはいなかったのである。

 大越氏と同年代でNHKのスター政治記者はというと、宏池会などを担当した前出・正籬氏、さらに大越氏と同期で山崎(拓)派などを担当した小池英夫理事である。2人はスクープを取りまくった。ともに報道局長も経験した。

 一方、大越氏の最終的な肩書きは記者主幹。局長に次ぐポジションではあるが、非ラインの専門職である。だから局内ではスターとは目されていなかった。

 とはいえ、それはNHKという組織内の論理に過ぎない。逆に局内ではスターである正籬氏と小池氏は外部から「政権に近すぎる」とよく批判される。

 大越氏と同じく記者主幹を最後に退局したのが社会部畑の池上彰氏(71)だった。辞めた直後には「なんで池上さんを民放が重用するのか分からない」と局内で言われた。その点でも大越氏と似ている。

 池上氏もスクープ記者とは言い難かった。だが、人間味溢れるMCで、早くから視聴者の利益になる報道と解説を心掛けていたことで知られる。

 NHKからは数え切れないほどの人材が民放に流れた。その中で一番の逸材は誰かというと、多くのテレビマンが名前を挙げるのが、国際畑の記者で1988年に退局しフジへ移籍した木村太郎氏(83)である。

 木村氏は1985年8月の日本航空ジャンボ機墜落事故の直後、報道特別番組のMCを担当した。この時の仕切りが放送界で伝説化している。

 乗客名簿の公開と日航の会見の時刻がほぼ重なり、ディレクターは日航の会見を優先しようとした。だが、それを木村氏が生放送中に制止した。

「視聴者の皆さんが今一番お知りになりたいのは、誰が乗っていたのか、家族や友人が乗っていないかだと思います。乗客名簿を読み上げてください」(当時の木村氏)

 強い口調だった。視聴者を第一に考えた。池上氏が民放で大成功した理由と重なる。

 大越氏が「報ステ」で成功できるかどうかのカギも期待される解説力より、視聴者の存在をどう捉えるかだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月16日掲載

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