リンガーハットに東京チカラめしも…瀕死の上場外食企業が手を出す“悪魔の増資”MSワラント

ビジネス 企業・業界 2021年7月22日掲載

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売上高が1割落ちれば赤字に転落

 新型コロナ感染の「第5波」が日本社会を襲う中、政府が飲食業界対応に四苦八苦している。

 西村康稔経済再生相は16日の記者会見で、飲食店対策として検討を表明していた「飲食店をメディアや広告で扱う際、飲食店の順守状況に留意するよう」求めたことについて、「進めているわけではない」と実質的に撤回する意向を示した。西村氏はすでに、休業要請に応じない飲食業者に金融機関から働きかけてもらう案についても撤回し、要請に応じない飲食店とは取引停止するよう酒類販売業者向けに出していた依頼も取り下げている。

 たしかに銀座や新宿といった東京の歓楽街には、緊急事態宣言下でも「おかまいなし」とばかりに深夜まで営業し、酒を提供している店がある。「要請に協力していない店に客がたくさん集まり、にぎわっている。限定的に(営業を)やって協力して、不公平感があるという切実な声をうかがった」という西村氏の説明に一理はある。

 それでも西村氏には飲食業界の苦境への想像力が欠けていた。他業種に比べて飲食業の損益分岐点は高く、あるシンクタンクの調査によると上場企業ですら損益分岐点は9割を超える。つまり、売上高が1割落ちただけで赤字に転落する企業が業界の大半を占めているのだ。そんな業界が昨年来、政府や東京都のコロナ感染防止策の“標的”となってきた。賃料補助の要請や陳情が相次いだのも無理からぬことだった。

 目下、飲食業界の置かれている状況は、西村氏の想像をはるかに超えている。メガバンクの幹部はこう吐露する。

「飲食業界には昨年来、政府の要請に応じて無担保無利子のコロナ融資、いわゆるゼロゼロ融資を実行してきました。しかし、現在に至るまで業界の経営環境はまったくといっていいほど改善していません。営業時間は短いまま、利益率が高いアルコールの提供もできない状況では改善しないのも当然です。そのため、『もう一回、融資をお願いできないか』という“おかわり”を求める声が後を絶ちません。苦しいのは痛いほどわかるのですが、追加融資については我々も慎重にならざるを得ない。今後の融資には、不良債権化するリスクがつきまといますから……」

 飲食業界は、頼みの綱である金融機関からも見捨てられようとしているのだ。そんな状況下、“禁じ手”とされる資金調達法に手を出す上場外食企業が増えている。

リンガーハットもサンマルクカフェも……

「本来はもっと自制的になされるべき“最後の手段”ですが、資金繰りがよっぽど厳しいのでしょう。だんだん心理的なハードルが低くなってきているようです」

 ある市場関係者がこう言って顔をしかめるのが、「MSワラント」と呼ばれる、特殊な新株予約権を活用した資金調達、増資の手法だ。

 土佐料理店「わらやき屋」を軸にカラオケやホテル、結婚式場の運営などを手がけるDDホールディングスは昨年10月、MSワラントを発行すると公表、外食業界で「MSワラントに手を出すとは、相当に苦しいのだろう」(中堅外食企業の経営者)と耳目を集めた。相次ぐ店舗休業や自粛の影響で同社の自己資本比率は前年比23ポイントも低下、わずか4%という危機的水準に陥っていたからだ。

 MSワラント発行に手を出す外食企業は、DDホールディングスだけではない。今年1月には長崎ちゃんぽん店を展開するリンガーハットもMSワラント発行による増資を発表している。同社も自己資本比率を前年比20ポイントも落とし、増資を迫られていた。そこでMSワラントによって約24億円を調達しようというわけだ。

 4月以降も、「サンマルクカフェ」を運営するサンマルクホールディングスや、焼き牛丼「東京チカラめし」、イタリアン「パスタmama」などを展開する三光マーケティングフーズといった有名外食企業が相次いでMSワラント発行に踏み切っている。

 市場関係者の間で「悪魔の増資」と呼ばれるMSワラントとは、いったいどのような金融商品なのだろうか。この仕組みはやや複雑だ。

 MSワラントの正式名称は、「行使価額修正条項付新株予約権」(Moving Strike Warrant)。

 一般的な新株予約権は、「あらかじめ決められた期間に、あらかじめ決められた価格で株を買える権利」のこと。行使価格が決まっているため、株価が行使価格を上回る局面で権利を行使すれば、投資家は「割安価格」で株を取得することができる。

 たとえば行使価格500円の新株予約権を持っている投資家は、企業の株価が1000円の時に権利行使をすれば500円分安く株を得られる。得た株をすぐに市場で売れば500円分儲けることができるわけだ。この投資家のうま味を利用して、企業は新株予約権を発行し、投資家に権利行使してもらうことで資金調達をはかる。

 だが、欠点がある。株価が低い状態だと投資家が権利行使をしないのだ。株価が300円まで低迷している時、つまり市場では300円で買える時に、わざわざ500円で買う(権利行使をする)投資家はいないだろう。企業にとっては自社の株価を高い水準に持っていかないといっこうに資金調達、増資が進まないことになる。

 この欠点を埋めるのがMSワラントだ。行使価格を固定せず、株価が高かろうが低かろうが、MSワラントの引き受け手は前日終値から10%ほど安い価格で取得できるルールになっている。引き受け手は証券会社であることが多く、先のDDホールディングスやリンガーハットが発行したMSワラント引受先はモルガン・スタンレーMUFG証券、三光マーケティングフーズのMSワラントはスターリング証券が引き受けている。

 市場価格よりも確実に安く買えるのだから、証券会社は儲かる。発行企業にとっては、株価が低くても資金調達が進む。発行企業にとっても引き受け手の証券会社にとっても、“悪くない”資金調達手段なのだ。

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